株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

黒澤 一

登録日:
2024-02-09
最終更新日:
2025-05-01
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  • 「医療の公益性が危うい」

    米国が関税を引き上げる。関税は輸入業者から支払われ、自国の消費者価格に転嫁される。そうなれば、輸入品が高価格になり、国内生産品に消費がシフトするだろう。米国内生産者を保護し雇用を確保する政策の一環とも言える。自由貿易化を推進してきた国際協調路線には真っ向から反する保護主義的政策であり、各国は非難すると同時に対応に追われている。

    非関税障壁は貿易摩擦の火種であり、今回の関税率設定の根拠の1つにもされた。一国の制度が、他国の企業の参入のハードルになっている例はめずらしくない。たとえば、日本国産の医療機器を輸出するには、米国のローカルルールをパスしなければならない。消費者にやさしい仕様で品質がよく、カスタマーサービスが適切に行われる体制を整備するなど、販売するための準備も必要だ。国内トップシェアを誇る筆者開発の医療機器も、米国への進出は苦戦している。非関税障壁と考えるか否か、双方の主張が対立してしまうのは致し方ない。少なくとも、お互い様なのだから、被害感情を一方的に押しつけるのは筋違いだろう。

    医療に関しては、PMDAが行う医薬品の承認プロセスや医療機器の規制などが、非関税障壁として米国からよくやり玉にあげられる。外国企業が、営利目的の病院を日本に設立するにも高い壁がある。病院が得た利益を株主に配当するようなこともできない。医療法に抵触するからだ。国民皆保険制度などの日本独自の制度も、営利目的の外国法人の進出を阻んでいる面がある。

    最近、高額療養費制度の自己負担額見直しの機運があった。国負担の軽減を前提とした予算が、衆議院で可決された後にご破算になった前代未聞の顛末は、記憶に新しい。日本の医療は公益性を重視し、すべての人々が平等に医療を受けられる仕組みがつくられている。医療制度の異なる米国からは、厄介な非関税障壁にみえているのだろう。わが国としては、とやかく言われないよう、建前通りの医療の公益性が守られていることが大切だ。

    昨今の病院経営は危機的状況だ。国立大学の大学病院をはじめ、国内の過半数の病院は赤字であり、異常である。地方自治体が経営する病院などでは、多額の赤字が税金から補填され、ツケが住民にまわされている。病院は鬼の経営に追い込まれている。薬品や医療機器を安く買いたたき、人件費もコストカットしている。当たり前が通用せず、営利目的同然の行為に迫られている。このままでは、医療の公益性が危うい。当然のことだと思うが、当たり前の医療で病院経営が成り立つようにするしかない。

    黒澤 一(東北大学環境・安全推進センター教授)[病院経営][診療報酬

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