株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

田妻 進

登録日:
2025-01-14
最終更新日:
2025-04-23
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  • 「日本版ホスピタリスト〜病院総合診療専門医への道」

    本連載の1回目(No.5263)、2回目(No.5268)において、VUCA時代の医療制度における有用なピースとして、日本特有のホスピタリスト像についてプライマリケアの現場における役割という視点で考察しました。本稿はその育成に関して日本病院総合診療医学会(JSHGM)が打ち出しているコンピテンシーを紹介します。

    JSHGMはホスピタリストの医師像主要4軸として、臨床(practice)、教育(education)、研究(research)、病院管理(hospital management)を掲げています。

    practiceとして「断らない、全人的医療」「地域包括ケア」「病歴、身体診察、手技」「診断学」「多様なセッティングでの診療能力」、educationとして「後輩育成」、researchとして「学問としての総合診療の専門性」、そしてhospital managementとして「リーダーシップ」「マネジメント」「医療の質と医療安全」「医療経営」、をキーワードとして挙げています。どの項目もホスピタリストにとって大切なのですが、とりわけ「医療経営」を特色の1つとしてご紹介したいと思います。

    医療施設を運営するには、医療制度を正しく理解した上で、責任者として経営の視点を倫理観や道徳心と同様に根源的にとらえることは必要不可欠です。医療の理念は良質で安心安全な医療を受療者に寄り添いつつ展開することであり、その根底には健全な医療施設運営が欠かせません。健全な運営とは確かなガバナンスのもとに、すべての職種に理念を共有し、具体的な行動目標を設定して自律性をもって営むことです。そして、その成果を精緻に評価する客観的な指標を持つことで成し遂げられるものと思われます。

    筆者が管理してきた医療機関では、ガバナンスの強化と並んで推進してきた取り組みの方略として、「4つの定(特定、想定、策定、改定)」を周知してきました。すなわち、医療施設現場の問題点・課題を拾い上げる(特定)、それを放置することで被る害や不利益を推理する(想定)、それを未然に防ぐ手立てを整える(策定)、実際にその手法で取り組んで気づく必要な補足を行う(改定)、というプロセスで進めるスタイルです。そのアウトカムについて、実質的・定量的に評価することが大切であり、病院ダッシュボードなどを駆使して、ベンチマークによる競合シェアや臨床シェアの確認を月次・四半期・半期・年次で追跡することで、自施設の位置を見失うことなく作業することを重視しています。病院管理の手法として、ホスピタリストとして、常に意識しておきたい姿勢だと感じています。

    そもそも医療は、営利ではなく社会貢献ととらえる姿勢を失ってはなりません。さりとて運営上のウィークポイント(計画や想定をはるかに超えるマイナス収支など)に気づいていながら、それを放置することは決して褒められるものではありません。世界に冠たるトヨタが始めて今や世界に浸透している『改善プロジェクト』よろしく、種々の現場から定期的にあがる要改善の声に耳を澄ませて、的確に対応策を講じる努力を続けるマインドとスキルこそが、ホスピタリストが持ちたいホスピタル・マネジメント力ということです。日本版ホスピタリストの活躍を応援します。

    田妻 進(日本病院総合診療医学会理事長、JR広島病院理事長・名誉院長、県立二葉の里病院顧問)[地域医療構想][ホスピタリスト

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