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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『研究不正への対処』」鈴木貞夫

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2025-09-18

最終更新日: 2025-09-09

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本稿でも何度も取り上げてきたが、HPVワクチンの接種後症状に関する疫学論文「八重・椿論文」1)の不適切性について、6年にわたり、論文撤回に向けた学術的な対処を続けてきた。しかし、事態はまったく動いていない。撤回要請レター2)で指摘した論文の致命的な欠陥に対し、論理的な回答がなされていないのに3)、撤回は棄却されている4)。この事態を打破するため、2023年末に、研究「JJNSのレターに関する議論の方法について:八重・椿論文を例に」を計画し、倫理審査を通した上で、八重・椿論文を巡る出来事を時系列にまとめた。アンケートや、聞き取り調査を行い、なぜこの論文の撤回が棄却されたのかを調査した。その結果をふまえ、最終手段として、日本看護科学学会(JANS)理事長と研究倫理審査委員会あてに「研究不正告発書」を送付した。既に告発書受理の連絡は受け取っている。

告発書は全42ページで、第1章「八重・椿論文の統計解析における『研究不正』」、第2章「JANS、JJNSの論文対応体制の不備」、第3章「利益相反問題とコンプライアンス違反」、の3章で構成されている。これまで、学術的な立場から「妥当性に欠ける」「不適切」としてきた八重・椿論文を、「統計学的な不正行為」「誤解を誘導する結果提示」に該当するという立場から、「研究不正」と断じたのが第1章である。内容はこれまで繰り返してきた主張と同じである。

第2章は、八重・椿論文の採択から論文撤回要請却下までの、JJNSの問題点に関するものである。看護的な内容を一切含まない分析疫学論文を「看護科学学会誌」がなぜ採択したのか、査読がどのように行われ、撤回要請レターがどのように扱われたのかを、公開データや関係者からの聞き取り、メール連絡で調査した。問題点は、スコープ外論文が異例の速さで採択されていること、「撤回却下」の判断がなされてから八重・椿両氏の回答が作成されていること(つまり、筆者の撤回要請と八重・椿両氏の回答、撤回要請の棄却判断の順序が不適切なこと)、撤回却下判断から6年が経過し、薬害裁判における「八重・椿論文有害」証言など状況が大きく変化したにもかかわらず、八重・椿論文についての議論が封鎖されていること、にまとめられる。

この例外的な八重・椿論文の扱いに、利害関係者・団体が関与していないかを問い質すのが、第3章の内容である。専門家が専門知識を使って、研究結果を曲げることは、明らかに職業倫理を侵す不正行為である。まして、そのことに利害関係者が関与し、学術誌がそれに追従していたとすれば、スキャンダルである。研究者が求められている高い倫理規範に照らし合わせ、論文の撤回と、関係者への社会的制裁を含めた、しかるべき対処が取られることを切望する。

【文献】

1)Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):433-49.

2)Suzuki S:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):500-2.

3)Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):503-6.

4)Holzemer WL:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):507-8.

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[HPVワクチン訴訟][研究不正

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