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坂本二哉

登録日:
2020-04-28
最終更新日:
2020-05-11
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  • 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における心血管疾患」

    中国・武漢に発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は今やパンデミック状態にあり、それに関する論考は日増しに増加、内容もきわめて多肢に亘る。

    本感染症の死亡者数が圧倒的に多い中国や欧米では、死因は肺炎重篤化による急性呼吸器症候群(ARDS)、「心疾患」、それに以前(No.5011)記載した血栓・血栓塞栓症があるが、本邦ではARDSのほか感染症ショックや多臓器不全が問題視され、心疾患にはあまり関心が持たれていないようである。また世界を通じ、ことに高齢者で、高血圧、糖尿病、腎疾患、呼吸器疾患、癌などを合併する場合の死亡率が高いとされ、80歳以上での死亡率は特に高い。

    本症でも心電図上、虚血性所見があれば当然冠動脈造影の対象と考えられるが、COVID-19の疑いまたは既発症患者にいかに対処すべきか、欧米では大きな問題となっている。ことにST上昇型心筋梗塞(STEMI)心電図を示す患者の心カテーテルラボでは大問題が発生する。スタッフの感染危険性と無治療による患者の不利益の両者を、医療側が天秤にかけねばならない。安定した症例ならば線溶療法がオプションだが、PTCA施行が必要なら厳重な感染防御策と術中の急変に注意が必要となる。カテ室内の血管内カテ挿入は禁忌で、また換気装置が不十分では患者の搬入に危険が生じる。

    幸い日本ではSTEMIの頻度はそう高くはなく、入院症例が圧倒的に少ないため、COVID-19入院例でのSTEMIは未報告である。またもしそのような例があったとしてもモニター用心電図が一つの肢誘導に限られるため、気付かれないのかもしれない。だがイタリア・ミラノにおけるSTEMIの28検査例中、冠動脈閉塞のない例が約40%あることから、トロポニン値の上昇(>0.128ng/mL)と合わせ、心筋細胞の壊死を生じていることに疑いはない。自宅待機中や歩行中の急死例では肺炎の急速な悪化よりも心筋壊死・心不全死の可能性が考えられる。心電図経過観察、トロポニン検査などの必要性を感じる。またこれに血栓塞栓症がどの程度関与するかは、今後の検討に待たねばならない。

    【文献】

    1)Stefanini GG, et al:Circulation. 2020 Apr 30.

    2)Welt FGP, et al:J Am Coll Cardiol. 2020;75(18):2372-5.

    3)News-Interventional:Many STEMI patients with COVID-19 have no obstructive arteries. 2020.4

    4)Basu-Ray I, et al:Cardiac Manifestations of Coronavirus(COVID-19). StatPearls[Internet]Last Update:April 12, 2020.(47の引用文献を含む) 

    坂本二哉(日本心臓病学会初代理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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