株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

河西千秋

登録日:
2025-03-07
最終更新日:
2025-04-30
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  • 「生徒・学生のメンタルへルス問題」

    先ごろ、2024年の日本の自殺問題に関する統計値が公表され、小中高生の自殺者数が計527人(小学生15人、中学生163人、高校生349人)と、2023年の同数値を超えて過去最大となったことが報道された。このような報道が為されると、メディアではすぐに「子どもの自殺」と喧伝する傾向にあり、筆者のようなものに対して、「子どもの自殺についてどう思われますか?」という質問を浴びせるが、小中高生は成長・発達の度合いに大きな幅があり、「子どもの自殺」とまとめて扱うことは、大きな誤解を与えたり対策にミスリードを引き起こしかねないので注意が必要である。

    この問題にさらに言及しておかなければならないことがいくつかる。1つ目は、児童・生徒、若者の自殺の増加傾向は、今に始まったわけではないということである。ときどき、「新型コロナ感染拡大以降、子どもの自殺が……」と話す人がいるが、それは誤りである。数値の見方にもよるが、既に10年以上前から増加傾向は認められ、先進国における若者の自殺、自傷行為の増加は問題とされてきた。2つ目として昨今、児童・生徒の自殺の増加の度合いが最も高いのは、高校生、ついで中学生で、特に女性に著しいということである。女性の自殺者数が、中学生、高校生のいずれにおいて男性を上回っている。一時期のように、「児童・生徒の自殺=いじめ自殺」という単純な図式で論じる風潮は減ってきているが、既存の学校のメンタルヘルス対策や自殺対策では、自殺問題には到底追いつかないことは自明であり、学校現場における抜本的な対策の見直しが必要である。従来、私たちのような自殺対策を専門とするものが学校から声をかけてもらうことは稀で、学校の中で対策をする機会は与えられてこなかった。しかし昨今、子ども家庭庁に自殺対策室が設置され、「こどもの自殺対策緊急強化プラン」が掲げられるなど、動きがある。近々改正が予定されている自殺対策基本法においても、児童・生徒の自殺対策の強化につながる文言が示されるのではないだろうか。私たち札幌医科大学神経精神科は、札幌市と協働で強化プランの中に言及されている「若者の自殺危機対応チーム」事業に取り組んでいるところである。

    もう1つ言及しておかなければならないのは、大学生の自殺問題である。筆者は、東京科学大学・安宅勝弘教授、筑波大学・太刀川弘和教授らとともに経年的に「大学における死亡学生実態調査」を行い、成果は文部科学省によって公表されている。2023年度に調査し得た計928の国公私立大学において、在学中に死亡した学生603名のうち、自殺、または自殺の疑いのある学生は287名を数えた。なお、これは調査し得た範囲だけの話なので、過少評価されている可能性があり、実際にはさらに深刻な状況かもしれない。

    昨今の大学生の主たる健康問題は、メンタルへルス問題である。筆者は、前任の横浜市立大学においても、現在の所属でも保健管理センター業務に注力してきた。現在、約3700名規模の大学で、年間延べ1000〜1200名(学生、医療スタッフを含む教職員)の相談に所属の臨床心理士とともに対応し、休学者や休職者の復帰のためのきめの細かい支援を行っている。しかしながら、すべての大学でこのような体制が敷かれているわけではない。1966年の国立学校設置法やその後の文部科学省令により、国立大学において保健管理センターの設置が促進されたが、公立・私立大学では、学生の保健管理システムがほとんど稼働していない大学も多い。あまり社会では知られていないが、これもまた、重大なメンタルへルス問題のひとつである。

    河西千秋(札幌医科大学医学部神経精神医学講座主任教授)[精神科メンタルヘルス

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