医薬品不足が続いている。直近の厚生労働省の出荷状況資料を解析すると、限定出荷が多い成分は、内用薬ではアトモキセチン塩酸塩、モンテルカストナトリウム、バルサルタンなどである(2025年8月29日現在)。これら成分の限定出荷の主因は製造トラブルであるが、かつての製造手順書違反とは異なる点に留意すべきである。ただし、これら成分でも需要増に伴う限定出荷(他社品の影響)が数十社におよび、需要増への対応は進んでいない。
企業は在庫消尽を避けるため、数量割当、納品時期調整、新規取引制限などを実施し、これを「限定出荷」と表現する。結果として、薬局では欠品、未納、納品遅延、バックオーダーといった「調達困難」が顕在化する。実際には、限定出荷と調達困難の成分は必ずしも一致せず、マクロでは企業在庫が十分に存在する一方で、薬局在庫の偏在がデータから確認されている。
薬局は競争下で納品確保のため実需を超える発注を行い、複数の卸への並行発注によって見かけ上の発注量を増幅させる。不要な納品は返品によって調整されるが、再流通をさせることは困難で、これも需給バランスの悪化要因となる。需要側のこうした慣行は供給側の出荷調整を強める。そして、薬局の過剰な競争が医薬品不足をいっそう深刻化させている。
根本的な要因は、薬局過剰による競争構造にある。日本の薬局数は2024年3月末で6万2828軒に達し、毎年約500軒増加している。人口減少で将来の患者数は減少し、病院では11万床規模の病床削減が計画されているにもかかわらず、薬局数だけが増加を続けている。さらに、厚生労働省が個店薬局でも経営可能な報酬体系を維持しているため、統合は進まず、調剤医療費は増加の一途をたどっている。
したがって、医薬品不足を構造的に解決するには、薬局数の大幅な削減が不可避である。単なる需給調整や一時的な出荷改善では効果は限られ、薬局数を適正化するための抜本的な改革が求められる。厚生労働省は製薬企業の再編を唱えているが、真に取り組むべき課題は、薬局数の是正である。そのためには、競合が集中する門前薬局や敷地内薬局、医療モール薬局などに対するさらなる調剤報酬の減額や後発医薬品体制加算の廃止が検討されるべきである。
2025年8月27日、厚生科学審議会のもとで新たに『医療用医薬品迅速・安定供給部会』が開催された。従来の関係者会議と同様に、企業側対応の限定出荷、薬局の発注慣行の結果である調達困難を、それぞれ区別せず議論が続けられている。流通問題の現状と原因を正しく分析し、薬局数削減という改革に正面から向き合うことで、医薬品不足の真の解決になるとともに医療費削減にもつながる。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[医薬品不足]