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森 浩一

登録日:
2023-02-14
最終更新日:
2024-02-01
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  • 「成人の吃音の複雑さと社会の理解」

    成人の吃音は、ほとんどが小児期発症の発達性吃音が残存したものであり、1%弱の有症率である。幼児期には吃音は自然治癒しやすいが、学齢中期以降の自然治癒率は半分程度に低下する。この理由の1つは、8歳頃までに発話運動能力の急速な発達が終わるからである。

    しかしもっと大きな理由は、学齢期になると、発話運動器官をある程度随意操作できるようになることである。人前で話すときに吃(ども)らないようにと、構音器官に力を入れるなどの勘違いをして間違った発話努力をしてしまうと、条件応答学習などにより、その不自然・非流暢な発話が半ば無意識的に学習され、習慣化する。この学習は状況依存的であり、独り言ではほぼ吃らないという吃音者が多い。独り言では吃らないようにという努力をせず、本来の自動的な発話能力に任せることになるからである。しかし、人前で話すときにはこれができず、つい不適切な発話努力をして吃り、さらに間違った努力するという悪循環に陥る。これを繰り返しているうちに、吃る予感が出るようになり、これが本人を苦しめ、吃音者意識を持続させ、発話への自信をなくさせる。「落ち着いて」「深呼吸して」などのアドバイスは、発話運動を意識化させるので無効である。

    吃音の治療を望む成人の多くは、からかいやいじめ、吃って恥ずかしい目に遭った経験をしており、半数以上が2次性の社交不安症になってしまう。慢性PTSD化したり、うつ状態が持続したりしていることもある。吃音を他人に知られると大変なことになる、大恥であると思い込み、人生の優先順位の1位が吃音を隠すことになる。たとえば、自分の名前は吃るので名乗らない、昇進すると人前で話さないといけなくなるので断るなど、発話を避けるための工夫が多くなり、自己効力感が低下する。また、他の発達障害の併発や、思春期以降には早口言語症を併発する症例も少なくない。

    治療には発話症状のみでなく、このような複雑な心理と背景の理解が必須である。以前は発話症状のみに焦点化した治療が標準だったが、長期的有効率も患者の満足度も低かった。近年は、認知行動療法(CBT)を含め、包括的なアプローチを用いる。改善に長期を要したり治療困難であったりする症例もあり、社会での吃音の理解と合理的配慮が必要である。就労困難な症例には発達障害として、精神障害者保健福祉手帳を利用するという選択肢もある。

    【参考資料】

    ▶森 浩一:日耳鼻. 2020;123:1153-60.

    ▶北條具仁, 他:吃音・流暢性障害学研究. 2021;4:1-17.
    http://www.jssfd.org/dl/gakkaishi04.pdf

    ▶Kim S-Y, et al:Kitasato Med J. 2021;51(2):117-27.
    https://www.kitasato-u.ac.jp/ktms/kaishi/pdf/KMJ51-2/KMJ51-2p117-127.pdf

    ▶Manning W:Contemp Issues in Commun Sci Disord. 2004;31:58-68.
    https://pubs.asha.org/doi/pdf/10.1044/cicsd_31_S_58

    森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター顧問)[吃音(どもり)][合理的配慮][認知行動療法]

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