株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

浅川敬太

登録日:
2025-01-31
最終更新日:
2025-06-13
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  • 「医療機関とパワハラ」

    規模の大小を問わず、医療機関から「パワハラ研修」を依頼される機会が増えてきました。パワハラをなくしたい、パワハラを生むような土壌をつくりたくない、と考える病院が増えてきたことは、とても好ましいことだと思います。

    病院は、ほかの業種に比べて、パワハラが発生しやすいと言われています。病院の業務において、医師の裁量権・決定権が大きいことがその一因です。医師とそのほかの職種との間には、優越的な関係が形成されやすいと言われています。また、専門的な知見・経験を持つ人の意見は通りやすく、不適切な言動が含まれていても、制御されにくいという点が挙げられます。卒後医学教育は厳しいものだという価値観が、管理職を中心に色濃く残存しているという側面もないわけではありません。

    さらに、一般社会では常識となっていることが、病院には一周遅れで入ってくることも多いように感じます。2020年に「改正労働施策総合推進法」(パワハラ防止法)が施行された際、一般企業はこぞってパワハラ研修を実施しました。ところが、病院からパワハラ研修の依頼をされ始めたのは、それから2〜3年が経過してからだったと記憶しています。筆者の肌感覚・雑感で恐縮ですが、当時、法律の施行に慌ててパワハラ研修を実施した病院は、稀有だったように思います。

    また、病院は、ほかの業種に比べて、パワハラ問題が顕在化する割合が少ないとも言われています。これは、従業員の多くが有資格者であり、転職が比較的容易であることが関係しています。つまり、パワハラの被害者は、早々に見切りをつけて離れていくということです。一般企業では、なかなかそういうわけにはいかないでしょう。パワハラ問題があるのに、声があがることなく当事者が立ち去るケースが多いため、問題が顕在化しない。組織において自浄作用がなくなることの危険性は、よく知られているところです。

    パワハラは、業務上の正当で必要な指導との境界線が必ずしもクリアではなく、そのわかりにくさにフラストレーションを感じる先生方がおられるのは理解します。しかし、ほかの業種に比べても、パワハラが発生しやすく、そして、気づかれにくいのが、我々が身をおく医療の世界です。このことだけでも胸にとどめておいたら、見えてくることが増えるのではないかと思います。

    疑わないと見えてこない……。さながら、鑑別診断を進めながら行う身体検査のようです。想像力を働かせて、声なき声を聞くというのは、まさに我々医師が得意とするところではないでしょうか。

    浅川敬太(梅田総合法律事務所弁護士、医師)[パワハラ][パワハラ防止法

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