2025年6月13日に閣議決定された『骨太方針2025』では、社会保障関係費の実質的な増加を「高齢化による増加分に相当する伸び」に収めるという、従来の「目安対応」を修正し、「高齢化による増加分に相当する伸び」に「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」方針を示した。医療機関経営が厳しさを増す中、経済・物価対応分を別枠で確保する方針転換は評価できる。
医療費の増加が問題視され、制度改正や効率化の必要性が議論されるが、コロナ禍で大きく変動した後、足元の医療費の伸びは再び鈍化している。概算医療費ベースで2023年度は+2.9%、24年度は4〜2月期で+1.4%にとどまり、それぞれ名目GDPの伸び(+4.9%、+3.7%)を大きく下回っている。医療費は経済の伸びほど増えておらず、こうした現実をふまえて冷静に議論すべきである。賃金・物価の上昇を反映して税収も大幅に増えている。25年度予算ベースで一般会計税収は77.8兆円(うち消費税は24.9兆円)と見積もられており、21年度と比較して10.8兆円(うち消費税は3.0兆円)も増加している。それでも歳出に比べて税収は不足しており、財政健全化を進める必要があるのは確かだが、診療報酬の引き上げの財源にも回す余地はあるだろう。
『骨太方針2025』で「加算」の方針が示されたと言っても、予断は許さない。どの程度まで「踏まえた」対応をするのか、現時点では明確でなく、医療界が望むほどの規模になる保障はないからだ。最終判断は年末の予算編成に委ねられている。政局が混迷する中、2026年度予算編成は、賃金・物価上昇局面における今後の医療政策の試金石になる。
また、どのような方法で対応するのかも問題である。前回の診療報酬改定では、ベースアップ評価料が新設されたが、賃上げにどれだけ配分するかは本来的に各医療機関の裁量のはずである。しかも、評価料は賃上げには対応できるが、それ以外にも材料費や委託費などが全体的に値上がりしているにも関わらず、使途が限定されていると、それらに回すことができない。初再診料や入院基本料を引き上げるほうが合理的である。
さらに、「加算」される経済・物価対応分を除くと、従来通り、高齢化による増加分への「抑制努力も継続」される。医療費の自然増には高齢化による伸びに加えて、医療の高度化等による伸びもある。高齢化による増加分に収めるということは、医療の高度化等による伸びに相当する増加分を抑制しなければならない。コロナ禍前までを見ても、2012年度以降、国民医療費の対GDP比はおおむね横這いにとどまっていた。これは、人口構造の変化による医療費の伸びが鈍化している中で、いわゆる「目安対応」による医療費抑制効果の厳しさを物語っている。制度改正・効率化がこれまでと同様に、求められることに変わりはない。その議論にも引き続き注意が必要である。
村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[医療費][骨太方針2025]
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