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八谷 寛

登録日:
2025-02-21
最終更新日:
2025-04-22
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  • 「『生活習慣病』の用語について」

    私が専門としている「生活習慣病」という用語は、適切な生活習慣を選択することによって予防が可能であるという概念に着目したもので、生活習慣に基づく疾病対策を推進するために行政的に導入された。しかし、生活習慣のみの重要性を強調する予防教育がバランスを欠き、悪い生活習慣を選択した個人に、その疾患になった責任があると短絡するスティグマにつながった弊害は大きいとの批判がある。

    そうした問題点を早くから指摘した日本福祉大学名誉教授の二木立先生によると、用語の起源は、故日野原重明先生が、1978年に「何年も何十年も毎日繰り返しているあなたの習慣」によってつくられる病気を総称して、「習慣病」と呼びたいと主張されたことにあるという。生活習慣は「lifestyle」と訳されることが多いが、「habit(習慣)」という、無意識に繰り返される人間の習性への関心がむしろ根底にあると言えるだろう。

    日野原先生は、ウイリアム・オスラー博士の医療に対する信念や人生観を模範としたとされ、その言葉を、共訳書『平静の心』により、わが国に紹介された。その中に「超然の術」そして「システム」という項がある。前者はart of detachmentの訳であり、後者は「系統的方法の徳(virtue of method)」と言い換えられている。それぞれ、誘惑からの隔離、また規則正しく、毎日忠実に学習や仕事をすることの重要性を述べたものであるが、いずれも狭き門に通ずる「習慣」の重要性を説くものと解される。

    なお、「生活習慣病」に対する重要な批判の1つに、生活習慣を規定する社会的要因の影響の大きさがある。たとえば、過酷な労働の生活への影響、健康的な食事は高価で賄えないなど、生活習慣にはその人の置かれた社会的状況が規定する部分が大きく、すべて個人の自由意思に基づき選択されたものであるとする考えは現実的ではない。

    健康づくりにおいては、ヘルスプロモーションや行動経済学の考えに基づき、自然と健康になれる環境づくりが重視されている。しかし、社会のあり方とともに、保健医療の専門職として様々な社会的背景を有する個人にどう向き合っていくべきか立ち止まって考える必要があろう。

    八谷 寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)[生活習慣病

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