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【識者の眼】「こころの状態を調えることが難しいときに『エンボディド・マインド』の視点を」森川すいめい

森川すいめい (NPO法人TENOHASI理事)

登録日: 2025-08-01

最終更新日: 2025-07-25

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こころの調子が乱れたとき、「気持ちを切り替えよう」と思っても、なかなかうまくいかない。そんなときに「エンボディド・マインド(身体化された心)」という考え方を持っていると助けになるかもしれない。これは、こころと身体が密接に結びついているという視点だ。

身体にアプローチした事例

精神科を受診する人の中には、身体の痛みや不調も伴って、こころのバランスを崩す方も少なくない。ある日、腰の痛みで休職中の方が外来を訪れた(架空事例)。腰の精密検査をしても原因がわからず、気持ちも落ち込み、吐き気やめまいもあり、仕事に復帰できない状態だった。始まりは運転の仕事中に軽い事故を起こしたときだ。また事故を起こすのではと不安になった頃に背中の痛みが強くなった。そして、痛みが気になると事故を起こす不安に圧倒されるようになった。痛み止めや運動療法、痛みによいとされる抗うつ薬も試していたが、十分な効果は得られなかった。不安や焦りが強まり、会社から精神科の受診を勧められた。

私は鍼灸師の資格を活かし、身体の状態を詳しく診た。触診すると、痛みのある部位には姿勢や筋肉の使い方による負荷が集中していた。その部位に鍼を刺すと痛みが少し軽減した。同時に、身体の構造や生活習慣など、なぜその場所に負荷がかかるのかを一緒に考えた。こうした身体へのアプローチを続けたことで、痛みが和らぎ、また事故を起こすかもしれないという不安に圧倒されなくなって職場に復帰した。

具体的な方法と実践例

こころの不調が身体に現れることはよくある。胸の苦しさや肩、首、背中、腹の痛みなど、様々な症状が出る。こころの回復は簡単ではない。私は、そんなときに無理なくできる身体からのアプローチを勧める。たとえば、胃薬や漢方薬によって体調を整えて精神が安定した人もいる。ジムに通ったり、プールで泳いだりして筋肉がつくと大抵のことには動揺しにくくなったという人もいた。また、土の上に背中をつけるだけでも心身ともに楽になることがある。ある調査では、1週間に120分以上自然に触れる生活をしている人は、ウェルビーイングが高いという結果も報告されている。

五感を活用したこころの調え方

こころは五感を通じて様々な刺激に反応する。そのため、こころを直接調えようとするのではなく、五感に入ってくるものを意識的に整えることで、こころが楽になることがある。たとえば、胸が苦しいときには、右手で心臓の鼓動を感じ、左手で下腹部の温度を感じながら「私は大丈夫」と声に出してみると、気持ちが落ち着くことがある。

最後に

こころを調えるのはなかなか難しい。そんなときに、「エンボディド・マインド」の考え方を活用し、身体や五感へのアプローチを試したい。身体が整うことで、こころも少し調っていくのを実感できるかもしれない。

森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[エンボディド・マインド][精神科

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