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森内浩幸

登録日:
2024-02-06
最終更新日:
2024-05-08
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  • 「風疹に封印〜その1」

    眼科医グレッグ、眼の付け所が良かった!

    初回に取り上げた梅毒のように、ある種の胎内感染が先天異常につながることは今では常識だ。しかしこのブレイクスルーを起こしたのは、オーストラリアの眼科開業医ノルマン・グレッグだった。先天性白内障の乳児がやたら多いことを不思議に思っていた彼は、ある日偶然、患児の母親同士の会話を耳にし、妊娠中に彼女らが風疹に罹ったことを知った。そこで患児らのカルテを調べたところ、先天性白内障患児の母親78人中68人が妊娠中に風疹を罹患していた。さらにその後彼はこの子らが難聴も合併することを知り、1941年に一連の研究結果を学会誌に発表した。

    その当時のオーストラリアは医学研究のスポットライトを浴びることのない僻地で、しかも彼は一介の開業医に過ぎなかったため、当初彼の革新的な発表は旧本国イギリスの医学雑誌Lancetからボロクソに扱き下ろされた。しかしオーストラリア国内から彼の発見を証明する研究が相次ぎ、かつて誰も想像し得なかった医学概念が定着し、彼の名は医学史に刻まれた。

    フィクション「鏡は横にひび割れて」

    ミステリーの女王アガサ・クリスティーは、ギネスブック認定の史上最高のベストセラー作家で、私も大ファンだ。売上で彼女に匹敵するものは「聖書」とシェークスピアしかない。「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」「オリエント急行殺人事件」「ABC殺人事件」と数多の名作が並ぶ中で、この作品はあまり知られていないが私には捨てがたい。その理由は……既にネタバレ? でもぜひ読んでほしい。

    ノンフィクション「遙かなる甲子園」

    1960年代、欧米で風疹が大流行した。米国では2万人以上の先天性風疹症候群児が生まれ、難聴、失明、知的障害、心臓病などに苦しんだ他、自然・人工流産で少なくとも1万1千人の胎児が死亡した。

    運が悪く、まだ米国占領下にあった1964年当時の沖縄に、この流行の火花が飛んできた。翌年400人(全出生児の50人に1人!)を超える先天性風疹症候群児が誕生したが、この子らは皆難聴児だったため、この子らのために6年間限定で北城聾学校(中等部・高等部)が開校された。ここに誕生した野球部の球児らが、難聴だけではなく先天性風疹症候群がもたらした体力的ハンディキャップを抱えつつ甲子園の県予選に出場を果たすまでの感動的なドラマは、「遙かなる甲子園─聴こえぬ球音に賭けた16人」(戸部良也、双葉社、1987年)として出版され、映画(1990年、三浦友和ら出演)やマンガ(山本おさむ作)にもなっている。そして、先天性風疹症候群の患者会〜風疹をなくそうの会「hand in hand」の共催で舞台公演もされている。

    ワクチンで風疹に封印!

    先天性風疹症候群の悲劇をなくすために必要なこと〜それは予防接種である。その話は次回に! 乞うご期待!

    森内浩幸(長崎大学小児科主任教授)[感染症の歴史[風疹(1)]

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