日本医師会(以下、日医)や病院団体は、医療経営の危機的状況を打開するため、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」との社会保障予算の目安対応の廃止や、賃金・物価の上昇に対応可能な診療報酬等における新たな仕組みの導入等を要望しています。私もそれに大賛成ですが、日医等はまだ「新たな仕組み」の具体案を示していません。
それに対し、島崎謙治国際医療福祉大学大学院教授は新著『日本の国民皆保険』(ちくま新書、2025年2月、278頁)で、「物価・賃金スライドと1点単価変動制を組み合わせた私案」を発表しました。2025年3月30日の日医代議員会でも、代議員が1点単価を物価上昇に応じてスライドさせる手法の検討を提案・質問しました。私は、松本吉郎会長がそれを全否定せず、「功罪相半ばする非常に難しい問題」「相当慎重な議論が必要」と答弁したことに注目しました。
私も1点単価変動制は「新たな仕組み」の1つと考えています。そこで本稿では、1958年に1点単価が10円に固定された経緯と理由を、日医の公式文書や、『日本醫事新報』等の専門誌の記事や関連図書の記述を用いて、探索的に検討します。