現在、全国の地方裁判所で、HPVワクチンの薬害裁判が行われている。疫学的内容については、原告側は椿広計統計数理研究所長が、被告側は中村好一自治医科大学名誉教授が証言をしている。被告側は鈴木・細野論文1)(名古屋スタディ)を、原告側は八重・椿論文2)を論拠として証言を行っているが、2人の証言が呼応しているわけでも、双方向の討論が行われているわけでもない。そのため、本来つながっている事象が、それぞれの立場から質疑されるだけで、議論はつながらず、深まらない。本稿では、「誤分類」について説明する。
問題のひとつは、鈴木・細野論文のサブグループ解析2の「早期の症状発現」を削除した解析である。これは、接種前からの症状を計上しないことで、因果関係の時間性にしたがった解析を試みたものである。しかし、早期症状の操作に年齢を使用したため、年単位の削除しか行えない。この不正確さで誤差は生じるが、接種とは独立しており、非差異的(non-differential)な誤分類と呼ばれる。
他方、八重・椿論文のモデル2では、初回接種から研究終了までの時間をstudy periodと定義し、初回接種より症状発現が早い症状は計上をしていない。一方、非接種群では接種日が存在しないため、小学6年生(12歳)から研究終了までの時間として定義している。しかし、比較の原点から言えば、非接種者の初回接種日は、「打つ選択をしたなら打つはずだった日」という反実仮想に基づいたものであるべきである。それが一律に12歳ということはありえない。したがって、誤分類は存在し、接種群で定義が異なるため、これは差異的(differential)な誤分類ということになり、study periodという変数も、裁判で問題視されている。
裁判で表立って議論されていないのは、上記のモデルが、いずれも「接種前症状の除外」という同じ目的で行われていることである。どちらのモデルが妥当かということこそ、この問題の論点であるということだ。非差異的な誤分類については、この場合であれば、鈴木・細野論文のサブグループ解析2で除ききれなかった誤分類がどの程度あるかということになるが、主解析との間に大きな結果の隔たりがないため、その影響は小さいと考えられる。八重・椿論文のモデル2は、年齢調整をしたモデル1と大きく結果が異なっており、差異的な誤分類が原因と考えられる。
疫学論文における誤分類が非差異的であれば、何らかの考察をすれば十分と考えられるが、差異的なものは原則禁忌である。study periodを「情報バイアス」という観点から見た場合、「曝露、共変量あるいはアウトカムの測定に欠陥があることで、そのために比較群間の情報の質(正確さ)が異なってしまう」という定義にそのまま当てはまっているということからも、study periodが関連を曲げていることが理解できる。
【文献】
1)Suzuki S, et al:Papillomavirus Res. 2018;5:96-103.
2)Yaju Y, et al:Jpn J Nurs Sci. 2019;16(4):433-49.
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[HPVワクチン]