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【識者の眼】「日本で初めてプロゲステロン単剤の避妊薬が承認」稲葉可奈子

稲葉可奈子 (産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)

登録日: 2025-06-03

最終更新日: 2025-05-28

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2025年5月、日本で初めてプロゲステロン単剤の経口避妊薬「スリンダ」が承認されました。国内で承認されている従来の経口避妊薬は、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンを配合した「混合型経口避妊薬」のみでしたが、今回の承認により新たな選択肢が加わりました。

有効成分のドロスピレノンは、黄体ホルモンにより、排卵抑制、子宮内膜の変化、頸管粘液の粘性上昇などにより妊娠を防ぎます。欧米では既に広く使用されていますが、日本では今回が初の承認となります。

従来の混合型経口避妊薬は、静脈血栓塞栓症リスクなどのあるエストロゲンを含むため、喫煙者、肥満、高血圧、45歳以上、血栓リスクを抱える女性などには使用が制限されていました。プロゲステロン単剤の経口避妊薬が承認されたことにより、これまで経口避妊薬の使用を制限されていた女性たちにも、望まない妊娠を防ぐための手段が提供されることになります。

日本では、避妊法としては不確実性の高いコンドームが主流であり、避妊効果が高い経口避妊薬が普及しておらず、女性自身にからだの自己決定権がある、というセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)の概念が浸透していません。

今回の承認により、日本でもSRHRの認知がより広まるきっかけとなることを期待します。また、我々医療従事者は、これまで従来のピルは使用できないと思っていた女性たちにも、経口避妊薬の選択肢が増えたことについての情報提供をしていくことで、より多くの人のSRHRを支えることになります。

もともと日本における経口避妊薬のニーズは大きくないにもかかわらず、新たな選択肢のために開発にふみ切って下さったあすか製薬株式会社さんには、産婦人科医として心より感謝申し上げます。海外では使えるのに日本では承認されていない薬は多くありますが、製薬会社さんも慈善事業ではないため、要望だけで日本へ持ってくることはできません。日本国内でのニーズが可視化されることで、今後さらにSRHR関連の薬剤の選択肢が増えることにもつながるのではないでしょうか。

稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科][経口避妊薬SRHR

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