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【識者の眼】「介護における分業とジョブクラフティング」松原由美

松原由美 (早稲田大学人間科学学術院人間科学部教授)

登録日: 2025-06-09

最終更新日: 2025-06-06

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超高齢社会の日本では、患者の多くは高齢者(特に後期高齢者)であり、その多くは介護を必要とするため、医療と介護は切っても切れない関係にある。2010年をピークに人口が激減し続けている日本において、人手不足が最も深刻な業界のひとつである介護業界では、医療業界同様に、効率的な働き方の推進は喫緊の課題である。その効率化策のひとつとして指摘されているのが、介護業務の整理・切り出しによる分業と言える。

将来の需給の変化を見据えた検討会として、厚生労働省では「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」に関する検討会を開始し、その中間とりまとめが発表されたが、そこでも業務の整理・切り出し、つまり、分業の必要性について指摘されている。いかに入浴介護の行程を細分化して分業し、効率化できたか、などが介護業界の経営改善事例としてよく報告されている。そもそも人が組織を組成するのは、分業によって飛躍的に効率化が可能になるからと言えよう。

しかし、過度の分業は単純作業の繰り返しとなり、働く人のモチベーションを下げる可能性がある。その対策として、垂直方向または水平方向に仕事を広げる方法が挙げられる。前者は、従来の業務に加え、新人の教育や、看取りケアの実践など、より専門性の高い仕事へ、仕事の高度化を図る方法である。後者は、箇所横断的なリスクマネジメント会議に参加して、従来業務と違う目線で業務の課題を考えてもらう、地域に出て、介護力の向上に向けた出前講座の開催、フレイル予防のイベントの企画など、まちづくりにも関わってもらうなど、職務を横に拡大していく方法が挙げられよう。

これらは働く側が会社から指示を受ける受け身の色合いが濃い方法だが、働く側が主体的に仕事の目的や意義をとらえなおす方法に、2001年にWrzesniewsk&Duttonによって提唱されたジョブクラフティングという概念がある。好例として、東京ディズニーリゾートや、JR東日本テクノハートTESSEIの清掃が挙げられる。自分の仕事・役割を清掃係ではなく、客に見せる(魅せる)仕事、客の笑顔につながる仕事ととらえ、道案内や、客とコミュニケーションをとる。

これらは職員一人ひとりが自分の仕事の認知を変えることから始まるが、職場のリーダーには、会社がめざすビジョンとともに、仕事の意義を伝えるリーダーシップが求められる。

アダム・スミスがピン製造における分業のメリットを指摘した通り、分業による効率化は古くて新しい問題である。国による処遇改善の支援は当然として、介護業界において、いかに分業を進め効率化を図りながら、働き甲斐のある職場をつくるか、マネジメント力が問われている。

松原由美(早稲田大学人間科学学術院人間科学部教授)[人口減少社会][分業働き甲斐][介護

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