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草場鉄周

登録日:
2022-07-28
最終更新日:
2025-08-22
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  • 「80年前からの学び」

    2025年は太平洋戦争終結から80年の節目の年ということで、戦争に関連する多くのテレビ番組や論説が発表されていた。その中で私が最も関心を持ったのは、NHKで取り上げていた敗戦当時の外務大臣であった東郷茂徳のメモの全容公開であった。

    そのメモでは、終戦に向けた2カ月にわたる工作の詳細が記されていた。当時の日本の中枢には、かなり正確な国際情勢の情報が届いていたとのこと。にもかかわらず、ソ連を通じた講和が可能であるという昭和天皇の希望的観測や、戦争を断固継続すべきという陸軍の強硬姿勢によって最終決断が引き延ばされた。そして、広島市や長崎市への原子爆弾投下や日ソ戦争の開戦という衝撃的な出来事がなければ、終戦の決断をすることができなかったという事実に驚いた。

    数十万人の命が失われたわけである。

    最悪の事態を見据えて、身を切る決断を行うことは確かに容易ではない。ただ、決断が遅れることでより大きなものを失う場合には、リスクを冒す勇気が求められる。そして、決断をすることができるのはリーダーだけであり、周囲から罵声と非難を浴びる覚悟もしなければならない。

    日本の医療界は、近年の物価や人件費の高騰で非常に厳しい情勢に至っている。もちろん、国際情勢の変化など予測できない社会環境の変化が影響していることは事実である。ただ、地域医療構想で唱えられていた「将来の人口構造や医療ニーズの変化を踏まえた医療機関の機能分化と連携」が着実に進んでいたら、痛みはもっと小さかったのではないだろうか。

    しかし現実は、国は都道府県に任せ、都道府県は2次医療圏での協議に任せ、医療圏では個々の医療機関の自主性に任せ、事ここに至ってしまった。何か、希望的観測や過去の成功体験に固執して破滅した戦争末期の日本の姿を見るようである。もちろん、日本の医療界はまだまだ潜在力があり、大きく発展する可能性は十分にある。ぜひ、身内に厳しくても未来につながる〈決断〉ができる真のリーダーが、日本の医療界に出現してほしい。

    草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療

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