治療と仕事の両立支援は、今や個別の職場対応を超え、社会全体の持続可能性を左右する課題となっています。2025年6月に開催された「第16回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」において、『両立支援において医療機関ができること』と題し、医療機関における両立支援のあり方を多角的に検討するシンポジウムを開催しました。
本シンポジウムの特徴は、「地域医療」と「職域」の接点を、リアリティを持って議論した点にあります。慢性疾患や脳血管障害とともに生きる就労者に対し、医療者がどのように就業継続を支えるかについて、医学部の卒前・卒後教育で学ぶ機会はほとんどなく、医療者として経験を重ねていく中で受診者から相談され、実践から学ぶことが多いというのが実情です。産業保健総合支援センター等で相談員をされている医療者であれば、両立支援に対するハードルも低く、的確な助言やサポートが提供されていることもあります。しかし、「療養・就労両立支援指導料」という診療報酬の算定は、広く知られているとは言えません。そのため本シンポジウムでは、診療報酬制度について解説した後に、事例を提示し、診療情報提供書の書き方や職場からの職務情報の受け取り方、医療者側が両立支援を始める際に必要となる情報、産業医(企業側)から必要とされる情報について、対話を行いました。
私たちが大切にしていることは、産業医からは見えづらい、「復職判断をせまられる主治医の葛藤」について語ることです。「医学的に問題ない」と言い切れるのか、あるいは「主治医が必要と思う就業配慮が職場で実現可能なのか」、さらには患者の社会的背景や大切にしている思いに配慮しながら、不安などの感情にどう寄り添っていくのか。「診断書に書く一言が、患者の人生を左右する」、だからこそ主治医と産業医がお互いの役割の違いを明確にしながらも、対等なパートナーとして連携することが求められます。
また、かかりつけ医は、産業医のいない事業所に勤務する人々にとって、健康に関する問題が生じた際に、最初にアクセスでき、自分のことを最もよく知る医療者です。そのような医療者であるかかりつけ医は、「就労継続において頼りがいのある存在」であり、両立支援の最前線にいるとも言えます。労働者人口が減っている現代において、日常診療の中に、両立支援を当たり前のように根づかせていくことが求められています。
シンポジウム『両立支援において医療機関ができること』は、2025年9月30日まで、「第16回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会のサイト」から、オンデマンドでも視聴可能です。よろしければ、ぜひご覧下さい。
今回のシンポジウムで扱った事例は、日本プライマリ・ケア連合学会監修の書籍『プライマリ・ケア医のための働く世代のみかた』(南山堂)にも掲載されています。よろしければ、こちらの書籍をお手元においてご覧頂けますと、よりいっそう理解が深まることと思います。
安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[両立支援][産業保健][プライマリ・ケア]
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