「日本医療政策学会」という新しい学会が、2024年に立ち上がりました。
1990年代にエビデンスに基づく医療(EBM)の重要性が認識され、今ではEBMは医療の常識となっています。一方、近年では、医療政策に関しても「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の重要性が認識されるようになっています。しかし、実際の医療政策はエビデンスに基づいた設計とはなっていません。
EBPMを社会実装するには、政治家や官僚などの政策立案者と、研究者や医療者が双方の事情を理解する必要がありますが、実際には対話の場は限られています。今後、少子高齢化がさらに進み、医療・介護費の適正化が必要となる日本において、EBPMの実現は必要不可欠であり、医療政策のエビデンスを共有し意見交換する場が求められます。
そこで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部・公衆衛生大学院准教授の津川友介先生を発起人代表として、医療政策研究の活発化とEBPMの推進を目的として、「日本医療政策学会」が設立されました。その第1回学術集会が、2025年6月28日に慶応義塾大学三田キャンパスにて開催されました。各科ごとの学会と異なり、実に様々な立場の方が一堂に会し、ざっくばらんに意見交換がなされ、まさに学会設立の趣旨通りでした。
さらに、ポスター発表会場には、ポストイットとペンが設置されており、発表時間にかかわらずコメントを寄せることができ、そのコメントも含めて閲覧してもらうことができる仕掛けがされていました。研究者の励みにもなりますし、新たなつながりも生まれる可能性があり、非常によい取り組みでした。ぜひほかの学会でも取り入れて頂くと、より有意義な場となるのではと思います。
一方で、産科医療についてのシンポジウムの感想を他分野の方にお聞きすると、大前提の認識が異なっており、結果として課題のとらえ方が現実と異なる方向となっていました。他分野の方が、産科医療の現況に通じていないのは当然のことで、だからこそ、共通認識としておくべき大前提の現況の確認は重要だと痛感しました。前提条件が共通認識となることで、議論がより意義深くなるのではないかと思います。
医療政策学会での議論が、学会内での机上の空論にとどまらないように、社会にうまくインストールされていくことを期待します。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科][日本医療政策学会][EBPM]
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