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【識者の眼】「マジョリティとマイノリティ」草場鉄周

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2025-07-16

最終更新日: 2025-07-11

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手前味噌だが、2025年6月20〜22日に開催された『第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会』は盛況のうちに幕を閉じた。コロナ禍を経て参加者数は着実に増加し、最終日の段階でWeb参加を含めて6300名を超える参加者で大変な賑わいであった。幸い気温も低めで、北海道外から来られた方には快適な環境であったと胸をなで下ろした。

さて、大会では様々なトピックが扱われたわけだが、その中で私が1番感銘を受けたのは『つないでほどく アイヌ/シサ(和人)を例に〜マジョリティとマイノリティを考える』という北海道大学アイヌ・先住民研究センターの北原モコットゥナ氏の教育講演であった。

私自身は福岡県出身で、24歳から北海道に在住していることもあり、小中学校などでアイヌ民族について学ぶ機会はほとんどなかった。ただ、住んでいた室蘭市の隣の登別市に、アイヌ民族に伝わる物語を記した『アイヌ神謡集』の著者である知里幸恵氏の博物館があった。さらに、その隣の白老町には国立アイヌ民族博物館が建築され、自然と関心が向かうこととなった。しかし、それは歴史や民族学といった机上の学びの域を超えなかった。

今回の講演では東京で生まれ育ち、アイヌ民族としてのアイデンティティを関東で育みながら、社会に発信を続けている演者の生き様や考えをお聞きして、得ることが大きかった。「見えない化」されているアイヌの人々、そして、そこにふれてはいけない気がしてしまう和人の人々。日本ではネット上で差別的発言をする者はいるが、生活の中で正面から差別的発言をする方は確かに少ない。しかし、目に見えないが「ふれてはややこしい、面倒」という空気は確かに漂っており、マイノリティにはある種の圧迫感を、マジョリティには忌避感を感じさせる構造をもたらしていると。

医療現場では、障がいを持つ方と健康な方、LGBTQの方とそれ以外の方など、様々な形でマジョリティとマイノリティが入り乱れる環境が普通であり、医療を提供する上で、マイノリティの方の生活や健康観にふみ込むことも少なくない。そうしたときに、今回提示された「空気」があることに敏感であることは、本音で対話するためには非常に重要であろう。日本という文化風土で働く医療者全員に感じてほしいテーマだと切に思う。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療

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