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【識者の眼】「医薬品流通は利権の迷宮─流改懇は解体的再編すべき」坂巻弘之

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2025-07-11

最終更新日: 2025-07-09

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コメ不足が深刻な問題となっている。これに関連し、2025年6月23日付の日本経済新聞朝刊に「官製版『コメ流通革命』の皮肉」と題する記事が掲載された。記事には、「米国の経営学者、ピーター・ドラッカーは約60年前、流通業を『経済界に残された最後の暗黒大陸』と呼び、小泉農相は現在、『コメ流通はきわめて複雑怪奇、ブラックボックスである』と語る」など、コメ流通制度の不透明さを指摘する記述があった。また、「そもそも流通業は商品を仕入れて販売するというビジネスモデルであるため、劇的な技術革新は起きにくい」とも指摘している。

一方、2025年6月20日に、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(以下、流改懇)が、2024年10月以来、約10カ月ぶりに開催された。薬価と市場実勢価との乖離について、施設区分別や価格代行業者の関与の有無といった観点から調査結果が報告されたほか、適切な仕切価や割戻しの在り方についても議論された。また、医薬品の返品、緊急配送(急配)、頻回配送に関しては、日本薬剤師会が「通常業務の一環である」との見解を示したとされている。

本稿の読者の多くは医療関係者であり、こうした業界特有の用語もおおむね理解できるであろう。しかし、これらの議論が、一般の国民や患者にとってどの程度理解可能なものであろうか。

流改懇は、本来、医薬品流通の現状を分析し、不適切な取引慣行の是正や改善策の検討を目的とした会合である。しかし近年の議論の内容を見ると、現行の流通構造の維持に重点が置かれ、薬価差の存在を死守し、それを関係者間でいかに分配するかという点に議論が収斂している。言い換えれば、各関係者が既得権益をいかに守るかが、実質的な目的となっている。実際、当日の会合では「流通のサステナビリティを守る」との発言もみられたが、「サステナビリティ」とは、既存の権益構造を維持することにほかならない。

医療用医薬品の流通や価格形成の仕組みについて、一般国民や患者が知る機会はきわめて限られている。しかし、流改懇での議論の在り方を見ていると、医薬品流通の実態こそが、まさに「暗黒大陸」、あるいは「ブラックボックス」、さらには「利権の迷宮」と感じられても不思議ではない。コメ流通の問題と同様に、医薬品流通の前近代性が、医薬品不足を引き起こす要因となっている側面が多分にあり、結果として医薬品流通全体への不信感につながることが懸念される。

流改懇は、自らの権益に固執することなく、真に医薬品流通制度の近代化や革新につながる議論が行われる場へと脱却すべきである。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[医薬品流通

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