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難治性骨折治療の進歩 [学術論文]

No.4695 (2014年04月19日発行) P.37

新倉隆宏 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学特命講師)

黒田良祐 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学准教授)

登録日: 2016-10-08

最終更新日: 2017-04-05

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  • 真の難治性骨折とは,生物学的活性が低下し,適切に整復固定していてもそれだけでは骨癒合が得られない骨折である。このような場合,低下している生物学的活性の補強が必要となる。この目的で行われる代表的なものが自家骨移植で,有効な手段である。しかし,採骨のため健常部に侵襲を加える,採骨量に限度がある,といった克服すべき課題がある。そのため近年,再生医療の応用も含め,様々な手法で新たな骨癒合促進法の開発が試みられている。既に普及しつつある手法と今後臨床応用が期待される手法について解説する。

    1. 骨折部の生物学的活性補強

    難治性骨折という用語を使用するにあたっては,注意が必要である。難治性骨折とは,読んで字のごとく,なかなか治癒しない骨折ということであるが,大きく2つのタイプに分けられる。1つは,骨折治療の原則である整復および固定が適切でなかったために,遷延治癒あるいは偽関節となっているものである。このタイプでは,不適切であった整復および固定を改善することにより治癒が得られる。これに対し,もう一方のタイプ,真の難治性骨折とは,骨折部の生物学的活性が低下し,適切に整復および固定がなされていてもそれだけでは骨癒合が得られない骨折である。
    生物学的活性低下を引き起こす要因には様々なものがあるが,感染,重度開放骨折など高エネルギー外傷が代表的なものとして挙げられる。頻度は高くはないが,放射線照射骨は最も生物学的活性が低下しているものと言えるであろう。そのほか,喫煙,糖尿病も生物学的活性低下に関与する。
    このような生物学的活性低下を伴う真の難治性骨折を治療する場合には,低下している生物学的活性の補強が必要となる。この目的で行われる代表的な治療法が自家骨移植であり,有効な手段である。しかし自家骨移植には,採骨のため健常部に侵襲を加えること,採骨量に限度があること,といった克服すべき課題がある。そのため,近年では再生医療の応用も含め,様々な手法で新たな骨癒合促進法の開発が試みられている。
    本稿では,既に臨床において普及している,あるいは普及しつつある手法,および今後臨床応用が期待される手法について解説する。ただし,それぞれの手法においては,骨折をどのように治癒させるかというアプローチが異なっている点に注意しなければならない。つまり,生物学的活性が低下した骨を切除し,新たな骨を再生して補塡しようというIlizarov法に代表されるアプローチと,できるだけ骨折した骨同士を接合し,そこに局所投与あるいは全身投与によって生物学的活性を補塡しようとするアプローチである。

    2. 自家骨移植がゴールドスタンダード

    自家骨移植は,細胞,液性因子,足場(骨基質)という再生医療の3本柱をまとめて移植できるため,現在でも生物学的活性低下を伴う真の難治性骨折治療のゴールドスタンダードと言える1)。ここで言う細胞には骨芽細胞,その前駆細胞,あるいは多分化能を有する幹細胞が含まれ,これらの移植により細胞が移植部位で働く効果だけでなく,最近ではその細胞が液性因子などを放出することによって働きかける効果もあると考えられている。
    骨形成に関与する液性因子は多くあるが,その代表的なものが骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)である。欧米においては2種類のBMP,すなわちBMP-22)とBMP-73)が骨形成促進目的で既に臨床使用されている。日本では認可されていないため欧米の報告に頼るしかないが,BMP単独で自家骨移植をしのぐほどの有効性が得られるわけではなく,いまだに自家骨移植がゴールドスタンダードとして位置づけられているようである。自家骨移植では骨基質ごと移植するため,骨片同士の間隙,骨欠損などを補塡するという観点からも有効な手段となる。
    通常よく行われる自家骨移植は,腸骨を代表的な採骨部とする海綿骨の移植である。用途によっては皮質骨付きでの移植も行われる。このような遊離骨の移植に対し,血管柄付き骨移植がある。血管柄付き骨移植は,たとえば感染症例,大規模骨欠損例などを適応として,生きた骨を移植する目的で血管柄付きで採骨し,これをマイクロサージャリー手技により血管吻合して移植するものである。血管柄付き骨移植には腓骨が最も多く使用され,そのほか腸骨や肋骨も用いられる。

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