I章　手外科の治療
　1 どうして手外科を選んだか（藤　哲）
　2 手・手指骨折の治療方針（藤　哲）

II章　肘の治療
　1 肘内側側副靱帯の再建はどうして増えたか（柏口新二）
　2 画像検査の進歩と医師の診断力の低下（柏口新二）
　3 肘内側側副靱帯の再建を行う理由（柏口新二）
　4 肘内側側副靱帯再建術の論文レビュー（琴浦義浩）
　5 肘内側側副靱帯損傷の手術適応と術式選択（柏口新二）
　6 肘の脱臼の治療方針（柏口新二）
　7 野球肘検診からの学び（松浦哲也）
　8 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎（OCD）の病態を考える（琴浦義浩）

III章　運動器治療の陥りやすい診断，治療の失敗
　1 膝関節の滑膜ヒダ障害（岩瀬毅信）
　2 膝関節滑膜ヒダ障害のレビュー（横山賢二）
　3 肘関節鏡視下手術のコツ（岩瀬毅信，柏口新二）
　4 日常の雑談の中から学ぶ（柏口新二）

IV章　肘内側部障害の競技復帰のマネジメント
　1 肘頭疲労骨折選手とのやり取りの実際側部障害の競技復帰のマネジメント（梅村　悟）
　2 肘内側部障害の競技復帰のマネジメント（能勢康史）

コラム

索引

コロナ禍になり，野球肘検診や試合の見学等の外での活動が減り，自宅で本を読んだりテレビに向かったりする時間が増えました。テレビはもっぱら時代劇を観ています。池波正太郎の「鬼平犯科帳」や「剣客商売」「雲霧仁左衛門」，藤沢周平の「果し合い」「帰郷」「武士の一分」「隠し剣 鬼の爪」などが好きです。司馬遼太郎の「坂の上の雲」や「燃えよ剣」などの明治物も面白いのですが，江戸時代を舞台にした作品になぜか特別な親しみを覚えます。
私は還暦を迎えた時，「残り半分の人生では若い時にやり残したり，諦めたりしていた『遊び』を楽しもう。仕事は第一線を退き，後輩の後方支援に回る」と決め，仕事量を徐々に減らしていったのですが，3年後にコロナ禍となり県外に出ての仕事が激減しました。身体も頭もまだまだ元気で少し早まったかとモヤモヤする日々を過ごしていました。そんな折に，藤沢周平の作品「三屋清左衛門残日録」に出会いました。主人公の三屋清左衛門が「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」と思いを記す件を観て「まさにその通りだ」と強く感じました。その影響を受け，何か書き物を遺して後輩の皆さんに伝えたいと思うようになりました。
2022年1月に八戸の中澤クリニックで，藤先生と手術をご一緒させて頂く機会がありました。丁寧な術後記録を以前に拝見し，実際の手術も拝見したいと思っていただけに，願いが実現し嬉しく思いました。この時の手術記録も目を見張る素晴らしさでした。後輩の整形外科医に，先生の理念や診療の取り組み方を若い医師たちにご教示下さるようお願いしました。また菊池雄星投手や大谷翔平投手の才能を発掘し，プロ野球選手に育て上げた能勢氏には，普段行っている選手やトレーナーとのやり取りを現場の雰囲気で伝えて頂くようにお願いしました。岩瀨先生の門下生である松浦，琴浦，横山の各先生には検診からの学びや疾患のレビューをお願いしました。東京厚生年金病院（現JCHO東京新宿メディカルセンター）で一緒に身体機能の見方を研鑽してきた梅村先生には日常の診療を再現して頂きました。
本書には日常の診療や手術に即役立つ知識や技術もありますが，鬼軍曹の小言や叱咤もあります。長い人生で本当に役立つのは理念や覚悟，心構えだと思います。「心意気」「思いやり」「勿体ない」，この3つの言葉を医療の現場で見聞きすることが少なくなりました。若い人が本書を読み，何か感じて下されば幸いです。