介護者の腰痛予防
腰を守るための介護姿勢と環境整備
過剰・不足のないよい介護には、まず介護者の健康整備から
目次
1章 現代社会と介護
1.介護とは
2.障害児の介護の実態と問題点
3.高齢者の介護の実態と問題点
4.介護者の職業病としての腰痛
第2章 介護者の腰痛の実態と特徴
1.職業性腰痛に関する実態
2.職業性腰痛の実態調査からみた考察
第3章 介護動作の特徴と方法
1.介護動作の基本原則
2.寝返り介助
3.起き上がり介助
4.立ち上がり介助
5.移乗介助
6.排泄の介助
7.衣服の着脱介助
8.身体の清潔行動の介助
9.入浴動作の介助
10. 食事動作の介助
11. 疾患・障害の種類に応じた注意と工夫
12. その他
第4章 介護者の腰痛予防プログラム
■ 介護者への対応
1.生活習慣の改善
2.姿勢・動作の改善
3.自分のからだを知る
4.ストレッチング
5.筋力増強運動
6.水中運動
7.その他
8.履物の工夫
■ 介護動作・技術への対応
1 介護動作・技術のチェックポイント
2 介護動作・技術の改善・工夫
■介護環境への対応
1 一般家屋の設備の構造改良
2 介護施設内の構造改良
■ 介護業務体制への対応
1 業務管理の工夫・改善
2 腰痛予防教育の徹底
第5章 介護者にみられる腰痛の診断と治療
1.腰痛の原因
2.腰痛の診断
3.腰痛の治療
4.腰痛のリハビリテーション
第6章 介護者の腰痛予防の教育
1.ヒトと腰痛
2.介護動作と腰痛
資料1.介護動作に伴う腰痛についてのアンケート
資料2.報告書
資料3.腰痛予防パンフレット
資料4.水中運動・水泳
索引
序文
超高齢社会を間近に控え、高齢者の介護問題は国家重要施策の一つに組み入れられるようになった。介護保険制度の導入後、その問題は解決の方向に進むかにみえたが、短期間のうちに見直しを迫られる事態が生まれている。
そして、「介護予防10カ年戦略」の発足に象徴されるように、今後は介護予防がキーワードとなる。介護予防とは、単に要介護や介護保険の対象者となることを予防するという意味ではなく、一人ひとりの高齢者が健康で幸福で自己実現ができる「健やかで実りある人生」を創り出すことを目標としている。予防に勝る治療はない。科学的基盤をもち、現実的で有効な介護予防システムの構築が急務となりつつある。
介護予防は、介護される側の視点にたった概念であり、施策である。一方、介護する側への視点や介護する側への対応は、ほとんど欠落していると言っても過言ではない状況が続いている。
たとえば、85歳以上の超高齢者にあたる親の介護を、65歳を超えた高齢者が行い続けているという事例(“老々介護”)は、今や決して珍しくない。その介護者自身が何らかの疾病や障害、痛みを抱えているのはごく普通であろう。仮に介護者が若く専門的な職業人としても、連日の介護業務を確実に、しかもやさしく行い続けるのは容易なことではない。また、挙上動作、移乗動作、入浴介助等の介護業務に関する動作に起因して、健康障害をきたしている例は少なくない。今や介護される側の対応とあわせて、介護する側への対応がきわめて重要な時期となっている。
介護者の健康管理は、介護サービスの質的向上と量的拡大と密接な関係を有している。中でも介護者の腰痛は、発生頻度も高く、非常に深刻な問題をはらんでいる。にもかかわらず、その実態の解明と予防対策の確立が十分になされていないため、介護現場の未解決の大きな問題として残されてきた。
そうした背景と観点から、平成12(2000)年度、平成13(2001)年度の2カ年にわたり、(財)社会福祉医療事業団(現・独立行政法人福祉医療機構)/長寿社会福祉基金よりの委託により、(財)骨粗鬆症財団の「介護職員の健康管理ー職業性腰痛に関する調査研究とその対策研究事業」の調査研究事業を実施した。武藤委員長の下、計13名の委員により、その調査研究報告書をまとめ上げる作業の中で、これらの事業成果を基礎に、介護現場の健康障害を低減し、より良い・より質の高い介護を実現するために役立つ単行本を作成することが合意された。
このような経緯から、高齢者にとどまらず、障害児への視座も含め、広く介護者の腰痛予防の実践書として企画・構成・編集を行った。当初の予定よりも発刊に時間を要したが、その分、重要なことをわかりやすく伝えるためのイラスト、図・表、写真等の工夫をこらすことができたと考えている。
本書を発刊させるにあたって、介護現場を再現する膨大なイラストを描き上げていただいた きもとよしこ氏には、大変な苦労をおかけした。厚く御礼申し上げたい。
本書が、わが国の保健・医療・福祉の領域における政策、研究にいささかなりとも貢献するとともに、介護現場の改善に役立てば幸いである。
レビュー
田島直也・野崎東病院長
書評
わが国は高齢社会に入り、平均寿命も男性78歳、女性85歳と、世界でも有数の長寿国となった。厚生労働省も健康寿命の延長を目標にしているが、今後さらに地域リハビリテーションの重要性が増してくると思われる。 高齢化とともに必然的に要介護者も増加してくるが、一方、介護者にとっては腰痛が大きな問題となってくる。看護職の腰痛については、日本腰痛学会でも数回取り上げられているが、介護者の腰痛の実態解明、対策は急務であり、本書はまさに時代のニーズに合ったテーマ、問題を取り上げたものである。編集は東大教授・武藤芳照先生らによるものであるが、実際に業務に関係している方々の執筆によるものであり、内容は次の項目から成り立っている。1.現代社会の介護、2.介護者の腰痛の実態と特徴、3.介護動作の特徴と方法、4.介護者の腰痛予防プログラム、5.介護者にみられる腰痛の診断と治療、6.介護者の腰痛予防の教育の6項目である。 本書が何よりも特徴的なのは、イラストが多い点である。被介護者の動作の解析、実際の介護の仕方、良い例・悪い例を挙げて説明してあり、また、腰痛体操、ストレッチの方法や水中運動・水泳の方法も示され、目で見て誰でも理解できるようになっている。実施に関わる人が常に手元に置いて、利用しやすいものになっている。 今後、介護業務に関わる人が多くなると思われるが、まず、個人の腰痛対策をしっかり行う必要がある。介護者が一度は目を通してもらいたい本である。
武藤芳照/東大教授
【自著紹介】介護者の腰痛予防─腰を守るための介護姿勢と環境整備
超高齢社会を間近に控え、高齢者介護は、家族、地域、社会、国家にとって深刻な問題である。今や「老々介護」は珍しくなく、介護施設の拡充と介護者の養成・資質向上は急務となっている。介護される側の「介護予防」は重要な国家政策の一つとなったが、介護する側、特に介護者の健康管理については見失われがちだった。 介護者の健康管理は、介護サービスの質的向上と量的拡大と密接な関係がある。中でも介護者の腰痛は発生頻度も高く、非常に深刻な問題を孕んでいる。にもかかわらず、その実態の解明と予防対策の確立が十分になされていない、という背景から実施された介護者の腰痛の実態とその予防対策についての調査研究の経緯と成果を基盤に本書が生まれた。 高齢者、障害児など広く介護者の腰痛予防の実践書として企画・構成・編集を行った。イラスト、図・表、写真等も工夫を凝らし、医学生・研修医にも理解しやすく、また、この問題の重要さがわかるように配慮した。最も現代的な主題の実践書として活用されることを願っている。