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(2)運動器の慢性痛の発生機序別にみたトラマドール製剤の使用[特集:慢性疼痛に対するトラマドール製剤の適切な使用法]

No.4900 (2018年03月24日発行) P.32

西須大徳 (愛知医科大学医学部学際的痛みセンター)

尾張慶子 (愛知医科大学医学部運動療育センター)

牛田享宏 (愛知医科大学医学部運動療育センター教授/学際的痛みセンター長)

登録日: 2018-03-23

最終更新日: 2018-03-20

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運動器慢性痛の多くは侵害受容性疼痛の慢性化と神経障害性疼痛にわけられる

運動器慢性痛の治療には集学的治療体制が求められる

トラマドール製剤はオピオイド作用が主作用となり,変形性関節症による痛みなど侵害受容性疼痛に効果を現す

トラマドール製剤はオピオイド作用のほかにSNRI作用も有するため,各種の運動器慢性痛で,NSAIDsなどの薬剤に効果がない場合にトラマドール製剤が選択肢となる

オピオイド系製剤としての有害事象には常に注意を払う

1. 慢性痛の薬物選択の幅の拡大

2011年,わが国において,弱オピオイド製剤であるトラマドール製剤の慢性痛に対する使用が正式に認められ,その後,他の麻薬性鎮痛薬や抗うつ薬の一部保険適用取得などにより慢性痛の薬物選択の幅は飛躍的に広がった。運動器慢性痛は複雑な病態が多いため,病態に合わせた薬物療法は有用であると考えられる。運動器の痛みメカニズムから,運動器慢性痛に対するトラマドール製剤による治療の実際について概説していく。

2. 運動器の慢性痛

運動器は骨,関節,筋肉などの組織で構成される器官であり,侵害受容器と神経線維(Aδ線維とC線維)により脊髄を経て脳へと痛み信号が伝達される。欧州における運動器慢性痛の報告は23〜35%とされている1)~3)。一方,わが国では運動器慢性痛の有症率は15.4%とされており,身体をあまり動かさない職業での頻度が高く,大都市の有症率が高いことが報告されている4)

運動器における痛みのメカニズムは侵害受容性疼痛の慢性化と神経障害性疼痛に大別され,混合性疼痛のケースも多くみられる。さらに,心理社会的因子を含めた機能性疼痛も少なからず関与するため,多角的視点で痛みを理解し診療にあたることが重要となる。器官別では関節の痛み(関節リウマチ,変形性関節症など),神経障害の痛み(脊椎・脊髄神経,脳神経系の障害),筋性の痛み(筋性・筋膜性疼痛)に分類され,それぞれの病態に応じ治療法は異なっている。さらに,運動器慢性痛は通常の慢性痛メカニズムに加え,不安や恐怖からくる不動化や運動制限が廃用症候群や機能障害を引き起こす。結果として二次的にさらなる痛みの悪化を誘引し,それにより痛みの悪循環をまねく結果となる(図1)5)。したがって,心理社会的背景も含めた詳細な医療面接や適切な検査,機能評価などを行って,正確な診断を行うことが最も重要となる。また,包括的な病態把握のためには,それぞれの専門分野の見解が必要不可欠であるため,当センターでは整形外科医,麻酔科医,精神科医,内科医,歯科医に加えて看護師や理学療法士,臨床心理士などが在籍し,多分野にわたる集学的治療を視野に入れた治療体制をとっている。


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