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認知症を合併した大腿骨近位部 骨折患者のリハビリテーション

No.4752 (2015年05月23日発行) P.56

田中一成 (箕面市立病院リハビリテーションセンター長)

登録日: 2015-05-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

骨折で入院した認知症のある患者さんへのリハビリテーションはどのような方針で進めればよいでしょうか。また,ゴール設定をどのようにすればよいでしょうか。高齢で大腿骨近位部骨折などをきたした患者さんでは,認知症を持った人もよくみられます。骨折部は安定しており,歩行練習を勧めてもよいのですが,むずかしく,また骨脆弱化のため下肢に全体重をかけることを制限したいのですが,患者さんは理解してくれません。そのような例に対してどのような方針でリハビリテーションを進めればよいのでしょうか,ご教示下さい。
【質問者】
遠藤直人:新潟大学大学院医歯学総合研究科 機能再建医学講座整形外科学分野教授

【A】

一般に認知症は大腿骨近位部骨折のリハビリテーション(以下,リハ)の阻害因子と考えられており,訓練指示などが入りにくいという理由から,十分な訓練が行われないまま,在宅復帰できずに施設入所などの転帰をたどる患者さんが多いのが現状です(文献1~3)。実際,受け入れに際して「認知症がないこと」を条件にしている回復期リハ病院も少なくありません。
しかし,「認知症を有する大腿骨近位部骨折症例は,有さない症例に比べ術前・退院時歩行能力ともに低く,退院時歩行能力から術前歩行能力を引いた変化量も有意に低下する」とする報告がある一方で(文献4),90.4%の症例で術前と同能力を再獲得することができたとの報告があるなど(文献5),認知症が大腿骨近位部骨折のリハ効果をいかに阻害するかという問題については,意見がわかれています。
それらの研究結果の差異は,同じ認知症と考えられても,それが重症な群と軽症な群の間では,期待できる治療効果に違いがあり,認知症か非認知症かのみでの治療予後判断が早計であることを示しています。特にMMSE(mini-mental state examination)が,10点台の場合は,通常の会話は可能であることが多く,リハにおいても十分に指示を伝えることが可能である一方,1桁以下の場合には,ほとんど指示が伝わらず,リハが成立しない場合も多いとされ(文献6) ,それらは厳密に区別されるべきです。
過去に私たちが行った調査でも,MMSEが10点未満の認知症群では在宅復帰率の低下を認めましたが,10点以上20点未満の認知症群においては,入院期間は長期化したものの,在宅復帰率は低下していませんでした。すなわち,この結果は,認知症が存在していても,それが軽症から中等度までであれば,粘り強いリハ介入の継続によっては在宅復帰の阻害因子にならないことを示唆しています(文献7)。
よって,認知症患者のリハを開始するにあたっては,まずその認知症の重症度を適切に評価することから始めます。前述の通り,重症例についてはリハ効果が十分に得られないことが予測できますので,家族の意向などを確認しながら,早期から転帰(施設入所など)についての相談・準備が必要です。軽症から中等度であっても,入院期間が長期化する可能性を念頭に置きます。
実際のリハ開始にあたっては,機能(運動機能などのimpairment)よりも,どのような生活を必要としているのかを包括的に検討した目標設定を行い,その目標達成に必要な,代償的,または環境改善的なアプローチを行っていくことが非常に重要となります。

【文献】


1) Kitamura S, et al:Clin Orthop Relat Res. 1998; (348):29-36.
2) Matsueda M, et al:Am J Orthop(Belle Mead NJ). 2000;29(9):691-3.
3) 武山憲行, 他:Hip Joint. 2001;27:116-20.
4) 勝井龍平, 他:骨折. 2010;32(1):114-7.
5) 中山義人, 他:東日臨整外会誌. 1996;8(1):13-7.
6) 石橋英明:理学療法学. 2005;20(3):227-33.
7) 田中一成, 他:運動療物理療. 2011;22(4):442-6.

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