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腱板断裂の保存治療

No.4749 (2015年05月02日発行) P.58

浜田純一郎 (桑野協立病院副院長/整形外科・トレーニング部門部長)

登録日: 2015-05-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

腱板断裂の患者さんは強い痛みで外来を受診します。
(1) そのうち7割から8割は保存治療で良くなると言われています。保存治療によって断裂が治るとは思えませんが,何がどう変わることによって痛みが取れるのでしょうか。
(2) 痛みが取れる人と取れない人では何が違うのでしょうか。
(3) 保存治療で特に重要な点。
以上について,桑野協立病院・浜田純一郎先生のご回答をお願いします。
【質問者】
井樋栄二:東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 外科病態学講座整形外科学分野教授

【A】

[1]保存治療で何がどう変わるか
上腕骨頭(以下,骨頭)の回旋制限こそ肩関節痛の原因です。骨頭の回旋制限が回復すれば痛みは取れます。症候性腱板断裂の96%に骨頭回旋制限がありますが,無症候性断裂では制限はみられません。関節の炎症もさることながら,肩関節痛を骨頭の回旋制限ととらえてみることを提案します。
文献から50~80歳代の腱板断裂の発生頻度は平均21%,そのうち症候性腱板断裂の頻度は33%です。すなわち50~80歳代100名中21名で腱板が断裂し,そのうち14名は無症候性で7名は症候性であることを意味します。腱板断裂があっても痛みのない人が圧倒的に多く,断裂自体では症候性になりません。肩関節痛(症候性)の原因である骨頭の回旋制限因子は,肩甲骨機能低下,烏口上腕靱帯(coracohumeral ligament:CHL)の肥厚,腱板筋(棘下筋,肩甲下筋,小円筋)の硬結の3項目です。
加齢による胸椎・肋骨運動の低下から肩甲骨運動制限,とりわけ下制制限により肩関節運動中,力学的に骨頭には前上方への力が過剰にかかります。その結果,CHLの炎症・肥厚や,関節窩で骨頭を挙上早期から保持するよう肩甲下筋・小円筋の硬結が誘導されます。これらは肩関節を保護する防御反応とも解釈できますが,骨頭の回旋制限すなわち症候性になります。
要約すると,50歳を過ぎた頃から始まる胸椎・肋骨・肩甲骨運動制限が原因,CHL肥厚と腱板筋の硬結が因子,骨頭回旋制限が結果です。したがって,保存治療で肋骨・肩甲骨運動制限を改善することで良くなります。
[2]痛みが取れる人と取れない人の差
痛みが取れる人は肩甲下筋腱断裂がない,肩関節拘縮がない,CHLの肥厚の程度が少ない,または広範囲断裂でない人です。痛みの取れない人はこれら4つ(肩甲下筋腱断裂,肩関節拘縮,CHL肥厚,広範囲断裂)のいずれかまたは複数を合併しています。拘縮は関節可動域(range of motion:ROM)からわかります。ROMの中でも骨頭が内旋するROMである結帯,水平内転,外転内旋,屈曲内旋に制限がある場合,CHLの肥厚が考えられますので,MRIでCHLを観察します。また,同時に広範囲断裂の有無もわかります。
痛みの取れない人の手術適応は,(1)断裂腱板が問題(外傷,断裂断端がひっかかる,または周囲組織と癒着)である場合,(2)肩甲下筋腱断裂の合併,(3)拘縮の合併,(4)広範囲断裂による外旋筋力不足で求心位を取れない,の4項目です。
[3]保存治療のポイント
手術では治せない障害こそ保存治療が重要であり,前述したように肋骨運動と肩甲骨機能障害を改善させます。第3~5肋骨の動きが悪いと肩甲棘の動きが低下し,第6~8肋骨が動かない場合は肩甲骨下角のコントロールが悪くなります。すべて硬ければ肩甲骨全体が動きません。
肋骨と肩甲骨を評価できれば残る問題を容易に整理でき,保存治療を継続するか手術を選択するか,即決できます。

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