【病歴聴取と肩不安定性の確認をもとに診断し,鏡視下安定化手術にて治療する】
肩の痛みを主訴に来院する若年アスリートの中に,明らかな(亜)脱臼の自覚がないものの典型的な肩不安定症の所見を認める症例を経験する。Boileauらはこの病態をunstable painful shoulder(UPS)と名づけた1)。UPSは全身関節弛緩性または肩関節弛緩性のある選手に外傷エピソードが加わって発生することが多く,潜在的不安定性が原因で競技時のみに痛みを生じるケースも少ないため,その診断は遅れがちである。国内の最近の報告では,鏡視下安定化手術を行った約1400例の肩不安定症のうち,UPSの病態に合致するものは2%で,最終診断までの期間は平均5.6カ月であったと述べている2)。
UPSの診断には,まず病歴聴取(外傷エピソードの詳細とその後の経過)と両側の肩不安定性の確認が重要である。apprehension testでは不安定感を訴えずに疼痛のみが誘発され,relocation testでは疼痛が軽減,消失することが一般的である。病歴と理学所見からUPSが疑わしい場合には,MRI関節造影と3D-CTを行い,典型的な不安定肩の所見であるバンカート病変やヒルサックス病変の有無を確認する。
治療は,基本的に反復性脱臼と同様で,鏡視下安定化手術が適応となる。
【文献】
1) Boileau P, et al:J Shoulder Elbow Surg. 2011; 20(1):98-106.
2) 星加昭太, 他:JOSKAS. 2016;41(1):42-3.
【解説】
泉 仁 高知大学整形外科