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テニス肘(上腕骨外側上顆炎)に対する治療方針【保存療法は有効で,難治例に手術適応あり】

No.4809 (2016年06月25日発行) P.55

和田卓郎 (北海道済生会小樽病院副院長)

登録日: 2016-06-25

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

テニス肘の有病率は全人口の1~3%との報告があり,日常診療で高頻度に遭遇する疾患です。その治療法は保存療法と手術療法に大別されますが,様々です。保存療法ではテニス肘バンド,ストレッチ指導,ステロイド注射,自己多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)療法,体外衝撃波療法,そしてレーザー療法などがあり,手術療法では鏡視下または観血的に伸筋腱起始部を切離する方法や伸筋腱のV-Y延長法などの報告があります。一方,無治療でも12~18カ月で自然軽快するとも言われ,質の高い比較研究が必要な状況にあると考えます。そこで,低侵襲に関節鏡を用いて良好な治療成績を報告されている済生会小樽病院・和田卓郎先生に推奨する治療法についてご教示をお願いします。
【質問者】
山本美知郎:名古屋大学大学院医学系研究科 運動・形態外科学手の外科学講師

【A】

テニス肘の病態は,上腕骨外側上顆における前腕伸筋,特に短橈側手根伸筋(extensor carpi radialis brevis:ECRB)起始部の腱付着部炎(enthesopathy)と考えられています。テニス肘には保存治療が有効であることは,ガイドラインが示す通りです。6カ月~1年以内に90%の例が治癒します。保存治療では疼痛を緩和すると同時に,症状を慢性化させない配慮が必要です。テニス肘バンドを装着させ,NSAIDの経口薬や湿布薬を処方します。患者には強い握り動作を避ける,重い物を持つときは前腕回外位にする,具体的には脇を締め手のひらを上に向けるよう日常生活動作を指導します。ステロイド局所注射は短期的な疼痛緩和に有効ですが,最大3回までとし,少なくとも1カ月以上の間隔をあけます。多数回のステロイド注射はテニス肘を慢性化,難治化させる危険性があるからです。
6カ月~1年以上保存治療を行っても症状が改善しない難治性テニス肘はrecalcitrant tennis elbowと呼ばれます。難治例のECRB起始部の病理組織像には炎症所見はみられず,血管増生を伴う線維性瘢痕組織が認められます。難治性テニス肘は手術治療の適応です。代表的な術式は,直視下にこの瘢痕組織を切除するNirschl法です。私は,関節内からECRB起始部の病的組織を低侵襲に切除する肘関節鏡視下手術を行っています。直視下,鏡視下を問わずテニス肘の手術成績は良好であり,80%以上の例で症状改善が得られます。
最近注目されている治療法として,PRP療法があります。自己血を遠心分離し,血小板を濃縮して病巣に注射することによって血小板に含まれるサイトカインによる組織再生を期待する治療法で,慢性期テニス肘の治療法の選択肢になる可能性があります。しかし,PRP療法の既存治療に対する優位性を示すランダム化比較試験は少数です。PRPの調整法,注射手技も様々で,一定の見解がありません。標準治療とするためには,国内で質の高い臨床研究を行い,エビデンスを確立する必要があります。

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