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野球肘[私の治療]

No.5120 (2022年06月11日発行) P.46

佐藤和毅 (慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センター教授)

登録日: 2022-06-10

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  • 野球肘は投球動作または投球擬似動作に起因する肘関節障害の総称であり,発症年齢により成長期野球肘と成人型野球肘に分類される。成長期野球肘は成長途上の骨端を中心とする骨軟骨障害であることが多いのに対し,成人型は成長完了後の筋腱付着部の障害や関節症性変化が中心である。障害部位により屈曲回内筋群牽引力や外反ストレスに起因する内側型(上腕骨内側上顆骨端離開・内側上顆下端裂離骨折,肘関節内側側副靱帯損傷など),上腕骨小頭に対する橈骨頭の反復する圧迫力・剪断力による外側型(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎,橈骨頭骨軟骨障害など),フォロースルー期の肘関節最大伸展強制と加速期の外反ストレスなどにより発生する後方型(肘頭骨端線離開・疲労骨折や骨棘形成など)にわけられる。

    ▶診断のポイント

    【問診】

    病歴,特に初回症状か繰り返しの症状か,またスポーツ歴を詳細に聴取する。投球動作のどのフェーズでどの部位が痛むのかを確認する。

    【身体所見】

    内側上顆障害では内側上顆前下方の限局した部位に,小頭離断性骨軟骨炎では小頭や腕橈関節に,肘頭疲労骨折・骨端線損傷では肘頭に圧痛を有する。小頭離断性骨軟骨炎では初期より関節腫脹および可動域制限を認めることが多い。投球動作を再現して疼痛や関節不安定性を確認するために誘発テストを行う。屈曲回内筋群の牽引に由来する内側上顆骨端離開では,肘関節伸展位・前腕最大回外位での抵抗下手関節掌屈や前腕回内運動により疼痛が誘発される。内側側副靱帯の牽引による内側上顆下端裂離骨折では内側上顆下端前方に圧痛を認め,外反ストレステストにより疼痛が誘発される。外反ストレステストは前腕回外位,肘関節約30°屈曲位で骨性安定性を除外して行う。内側側副靱帯損傷の誘発テストであるmilking testは,肘関節最大屈曲位あるいは90°屈曲位で外反ストレスを加えて疼痛発生をみる(static milking test)。さらに,屈曲位からの伸展に伴い疼痛が最も強い肢位と最大圧痛部位を確認する(moving milking test)。後方型は肘関節最大伸展強制で疼痛が誘発される。

    【画像所見】

    内側上顆障害,小頭離断性骨軟骨炎はいずれも障害部位が骨端核の40~50°前方(矢状面で4~5時方向)であるため,単純X線での病巣描出には肘関節伸展位正面像よりも45°屈曲位正面像(tangential view)が有用である。内側型では骨端線離開や内側上顆下端の裂離,小頭離断性骨軟骨炎では小頭中央~外側の不整(透亮,分離・遊離像)を認める。肘頭骨端線は13~17歳で閉鎖するが,物理的ストレスが繰り返される投球側は通常,非投球側よりも早期に閉鎖する。したがって,非投球側骨端線が開存している場合,患側が非投球側よりも開大していれば骨端離開と診断できる。非投球側骨端線が閉鎖している場合,患側が閉鎖していなければ骨端線閉鎖遅延と考えられる。骨端線閉鎖後は肘頭疲労骨折が発生する。疲労骨折は初期には単純X線像で描出されないこと,あるいは軽度の骨硬化像として描出されることがある。

    MRIは小頭離断性骨軟骨炎や肘頭疲労骨折の初期病変の検出や病期診断に有用である。CTは単純X線でとらえきれない骨軟骨病変の詳細を描出可能で,治療方針決定に有用である。超音波検査は非侵襲的に軟骨下骨の異常をとらえ,初期病変の検索も可能であり,また,裂離骨片の不安定性や外反ストレス負荷時の肘関節外反動揺性を評価することもできる。

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