株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

岩田健太郎

登録日:
2020-01-17
最終更新日:
2025-05-01
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  • 「形式主義と本質主義」

    日本では「本質」よりも「形式」をより重んじる。悪習である。

    「毛が3本生える育毛剤」に対して「完全とはいえないが、一定の効果がある」というのが「形式主義」だ。「実質的には効果がない」と断ずるのが「本質主義」である。医学・医療の世界では、もちろん本質主義でなければいけない。1mmHgしか血圧が下がらない降圧薬を「一定の効果がある」というのは、詭弁者であり、詐欺師であり、そして「嘘つき」である。「いやいや、嘘とはいえないでしょう。だって血圧下がってるんだから」とかいう輩は、まさに「形式主義的な」嘘つきなのである。

    形式主義者はかくして詭弁を弄する詐欺師にして嘘つきなのだが、加えて「卑怯者」でもある。論点を次々とスライドさせていって、口先だけで議論をはぐらかし、そして安全なところにバックレてしまうのである。

    前述のように、日本ではこのような形式主義は普遍的である。近年、その風潮はさらに増悪しているようにも感じる。そして、日本のみならず海外にもこのような風潮はみられるようになった。米国の大統領などがその代表で、愚策を思いついては周辺を混乱に落とし込み、経済や外交状況を悪化させた挙げ句に「自分は全然、そんなこと言ってないよ」と前言を撤回、これを交渉の「ディール」である、と嘯くのである。まさに詭弁者にして詐欺師、嘘つきにして卑怯者である。

    なに? それはお前が住む自治体の首長もそうではないかって? いやいや耳が痛い。

    しかし、ごく稀に「形式主義」が有効な場合もある。たとえば、予防接種の副作用判定と、その被害の保障である。

    「本質」で論じるならば、前後関係と因果関係の峻別は難しい。ワクチン接種でおきた事象が、「ワクチンを原因とした事象」であるかどうかははっきりしないことも多い。集団のリスクについては、比較群と比べてオッズ比で求めたりできる。だが、眼の前の「あなた」に起きた現象が、ワクチンのせいかどうかは直言できないことも多い。

    できないのであれば、しなければよいのである。自動車事故の保険金と同じで、「こういう状況下では金を払う」「ああいう場合は払わない」と完全にマニュアル化、形式化すればよい。そうすれば審査は迅速になり、宙ぶらりん状態もなくなる。形式が役に立つのは本質追求が困難な例外事例だけである。

    詭弁ばかりで他人をうんざりさせ、自分を貶めるのは止めて、そろそろ日本も本質主義に舵を切ってほしいと心から思う。

    岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[詭弁詐欺師

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