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五十肩に関する常識の誤りと適正な診療

No.4735 (2015年01月24日発行) P.55

井樋栄二 (東北大学大学院医学系研究科医科学専攻外科病態学講座整形外科学分野教授)

登録日: 2015-01-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

中高年者に生じる肩痛は,一般に五十肩と呼ばれ,昔から,「骨に異常はなく,放置しておけば治る」ことが常識とされてきました。しかし,五十肩による痛みは多くが軟部組織由来で,そもそも単純X線写真自体,診断に役立つはずがありません。また,五十肩とされる患者さんは,「放置しておけば治る」程度の軽い痛みから,睡眠障害の原因となる激烈な夜間痛をきたす人まで様々です。実際には,手術が必要な場合も少なくありません。

痛みが数カ月から数年持続し,不幸にして「骨に異常はなく,放置しておけば治る」ことを信じて,先行きの見えない痛みに病院を転々とし,うつ状態になる患者さんもいます。江戸時代から病名として一般に広く使われ続ける「五十肩」ですが,現在の診断,治療の最前線について,東北大学・井樋栄二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
皆川洋至 城東整形外科診療部長

【A】

中高年に好発し,明らかな誘因がなく,肩痛と可動域制限をきたす疾患群を五十肩と呼んできました。これは江戸時代に使われていた言葉で,『俚言集覧』(りげんしゅうらん)という俗語集には「50歳くらいになると関節痛が出てくることがあるが,特に治療しなくても自然に治る」と記載されています。

その後,この疾患に対して三木威勇治(みきいさはる)教授が1947年に日本整形外科学会で宿題報告をしています。その中で,五十肩を「老人性変化を主要な発症素因とする肩関節の疼痛性運動障害」と定義しましたが,病態がはっきりしないため適切な病名をつけることができず,「当面はこの俗称『五十肩』を学会としても病名として使いましょう」ということになりました。以後,病態のはっきりしない中高年にみられる肩の痛みに対して五十肩という病名が使われてきました。

診断学の進歩で肩関節疾患の種々の病態が徐々に明らかになり,腱板断裂,石灰性腱炎などの病態は五十肩から除外されるようになりました。しかし,最終的に病態がよくわからない疾患群ということで五十肩という病名が残っています。この最終的な五十肩を一般の人が使う五十肩と区別するために,「狭義の五十肩」「いわゆる五十肩」などの病名も使われるようになりました。現在,「五十肩」「いわゆる五十肩」「狭義の五十肩」などの病名が混在し,整形外科医の間でも,他科の医師との間でも食い違いが生じているのが現状です。

そこで,一般用語である五十肩を病名として使うことは好ましくない,国際的に使われているfrozen shoulderの和訳に相当する「凍結肩」を使うようにしようという動きが出てきました。

五十肩というと多くの人は自然に治る病気というように理解しています。前述の『俚言集覧』にもそのように書かれています。しかし,治癒までに1~4年,平均2年半かかるという「五十肩」は,患者のQOLへの影響が著しく大きい疾患と考えなければなりません。さらには,完全な可動域の回復は39%にしかみられないという報告(文献1) や,発症後7年経過しても50%の人には痛みや可動域制限が遺残しているという報告(文献2) もあります。

「五十肩」という病名が使われることで,患者さんに根拠のない安心感を与えてしまい,結果として患者さんの病悩期間が長引くことにもつながります。正しい診断のもとに治療介入することで,できるだけ病悩期間を短縮することができれば,患者さんにとって大きな福音となります。そのためには,「五十肩」という病名ではなく「凍結肩」という病名を使うことが望まれます(文献3)。

治療としては,消炎鎮痛薬内服,関節内注射,理学療法などを通して疼痛,可動域制限が徐々に改善してきます。このような治療が奏効しない場合には全身麻酔下の授動術や関節鏡視下関節包切離術が行われますが,最近では治療期間短縮のために外来でできる授動術も報告されています(文献4)。超音波ガイド下神経ブロックを行い,外来診察室で授動術を行う方法です。全身麻酔下の授動術や鏡視下手術と異なり,入院の必要がないことが大きな利点です。

【文献】


1) Reeves B:Scand J Rheumatol. 1975;4(4):193-6.
2) Shaffer B, et al:J Bone Joint Surg Am. 1992;74(5):738-46.
3) 井樋栄二, 編:特集・日常診療に役立つ肩関節疾患の診断と治療〔MB Orthop. 2012;25(11)〕.
4) 皆川洋至:MB Orthop. 2012;25(11):93-8.

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