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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『中国とコロナ』のみかた」鈴木貞夫

No.5151 (2023年01月14日発行) P.56

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-12-26

最終更新日: 2022-12-26

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中国が、長く続けてきたゼロコロナ政策から、ウィズコロナ政策へ急転換したことが報道されている。党大会でゼロコロナ政策の正しさを再確認したばかりのこともあり、唐突な感じではあるが、移動禁止など厳格な規制に反発する世論や、ゼロコロナ政策が中国経済に与える悪影響に対応した政策転換と考えられる。また、オミクロン株感染の致死率が、デルタ株までのものに比べて格段に低いということも追い風になったと思われる。

12月中旬から中国での新規感染の急増が報道されるようになったが、中国政府は、これまで毎日発表してきた新型コロナウイルスの感染者数や死者数の発表を、25日から取りやめると明らかにした1)。取りやめた理由については明らかにしていない。このため、中国の公式統計からは感染実態がほぼ分からなくなり、各国メディアは、批判の声を出すと同時に、中国の今後の感染爆発に懸念を示している。

中国の今後のコロナ感染で懸念される材料として、①低い抗体保有率とワクチン効果、②医療インフラ整備の遅れ、③人口の多さによる変異株発生の可能性、などが挙げられる。中国では、これまでのゼロコロナ政策と、ワクチン接種の遅れにより、他国に比べた抗体保有率は低いはずで、コロナ死亡が爆発的に発生する恐れがある。また、中国は国産ワクチンを使用しており、mRNAワクチンに比べて効果は低い。かつて、オミクロン株の初回流行で、東アジア全体に感染が広がった2022年前半、人口100万対のコロナ死亡のピーク(7日間移動平均)は、日本1.87、韓国7.00、台湾7.38に対して、香港は37.68と圧倒的に高い値を示した2)。これと同じことが、中国全土で起きるとしたら、どのくらいの死亡者が出るのだろうか。英国の調査会社エアフィニティーは21日、1日死者数が5000人を超えた可能性があると推計している3)

ここまでの中国は、夥しい量のPCR検査と厳格なロックダウンにより成果を上げてきた。模式的に考えると、根こそぎ行うPCR検査は、無症状のオミクロン株でこそ威力を発揮するはずであったし、日本でもその考え方が評価された時期もあった。しかし、現実はそうはなっていない。結果論ではあるが、中国政府は、PCR検査に費やした資金や労力を医療インフラの整備に充てるべきだった。中国が今から打つ手は非常に限られており、今後が懸念される。日本も③を念頭に対策を講じる必要がある。

【文献】

1)NHK NEWS WEB:中国政府 新型コロナの感染者数や死者数の情報 発表取りやめ.
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221225/k10013934181000.html

2)Our World in Data:country profiles. 
https://ourworldindata.org/coronavirus#coronavirus-country-profiles

3)ロイター:China COVID deaths probably running above 5,000 per day.
https://www.reuters.com/world/china/china-covid-deaths-probably-running-above-5000-per-day-uk-research-firm-2022-12-22

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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