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【識者の眼】「後発医薬品90%時代」武藤正樹

武藤正樹 (社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)

登録日: 2025-05-19

最終更新日: 2025-05-16

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大手企業などからなる健保組合の後発品使用割合が、2024年10月時点で90%を超えたことがわかった。後発品の供給が出荷調整などで不安定な中、目を疑うような使用割合だ。それも2024年9〜10月にかけて、3.5ポイントも伸びている。何があったのだろうか?

2024年10月から始まった、後発品のある先発品に対して選定療養による自己負担増が原因として考えられる。先発品から後発品への置き換えを促進するため、後発品があるにもかかわらず、あえて先発品を使いたいという患者に対して、病院の差額ベッド代と同じように選定療養という特別料金を徴収するようになった。特別料金は、先発品の薬価と後発品の薬価の差分の4分の1を自己負担に上乗せする。対象となる医薬品は、「発売より10年が経過して特許が切れた先発品」のうち、「後発品発売より5年経過したもの、あるいは後発品への置き換えが5割を超えたもの」で、約1000種類が対象となった。

この上乗せ分が効いた。特に先発品と後発品の薬価差が大きい医薬品ほど上乗せ分が増える。たとえば皮膚保湿剤であるヒルドイド軟膏400mgを先発品で処方すると、後発品より1400円も高くなる。

このため、これまで外来で「絶対に後発品はいやだ」と言っていた患者さん(中年女性が多い)が、「先発品が高くなったので、後発品でもがまんする」と言い出した。おかげで全国的に後発品の使用割合がアップし、都道府県で最も高い後発品使用割合は沖縄県の94.5%となり、最も低い徳島県でも89.1%になった。そして、徳島県を除いたすべての都道府県で使用割合90%超を達成した。国の後発品普及目標は、2029年までにすべての都道府県で80%超としていたが、この目標は5年も前倒しであっけなく達成されるだろう。

選定療養は18歳以下の小児医療費の無料化にも影響を与えた。小児でも先発品を選ぶと選定療養費が上乗せされる。実はこの小児無料の影響で、小児の後発品の普及率が低かった。どうせ無料なら先発品を使おうというわけだ。

大学病院で院内調剤をしていた頃、後発品への置き換えをしたことがある。そのとき、真っ先にクレームが出たのが小児患者の母親からだった。「なんで18歳以下無料なのに後発品を出すのか?」と言う。これに根を上げたのが小児科医だ。「母親への説明が大変だから先発品に戻してくれ」と……。

しかし、今回の選定療養の導入で、小児でも先発品を使うと選定療養費がかかることになる。これで小児にも後発品が普及するだろう。実は沖縄県ではもともと、後発品の普及率が高かった。その理由の1つは、沖縄県が財政力の低さから小児医療費の無料化が6歳以下に限定されていたことが挙げられる。

これまでは米国が後発品使用割合90%で世界第1位だった。これからは日本が米国を追い抜く時代となるだろう。選定療養の威力をあらためて思い知った「後発品90%超」のニュースだった。

武藤正樹(社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)[後発医薬品][選定療養

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