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【識者の眼】「COVID-19の5類感染症移行から2年─パンデミックで私が経験したこと」岡本成史

岡本成史 (大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)

登録日: 2025-05-23

最終更新日: 2025-05-21

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2025年5月、COVID-19が5類感染症に移行してから2年になる。現在は、COVID-19で社会中が大騒ぎすることはなく、感染力の強い感染症の発症例が身近に起きた場合の対処方法なども含め、適切に対策を講ずることとなっている。その意味で、COVID-19パンデミックから得られた感染対策に関する教訓は非常に大きい。しかし、2020年にCOVID-19の発症者が日本国内で発生しはじめてから5類感染症に移行するまでの約3年間、多くの人は、新たに出現した得体のしれない病原ウイルスに翻弄され、感染に対する恐怖のみならず、パンデミックによって生じた様々な問題に苦しんだのではなかろうか?

個人的な話で恐縮だが、2020年2月、当時在職していた大学で微生物学の教育研究に携わっていた筆者は、出張から戻った後に発熱し、近くの診療所で肺炎、COVID-19の疑いと診断された。担当医師はすぐ、SARS-CoV2のPCR検査の依頼をしたが、検査対象外とのことで検査を受けられず、 1人きりで自宅療養を行った。幸い症状が重症化することはなく、1週間後の再診では症状もほぼおさまっていたが、担当医師は、当時COVID-19の受け入れ機関だった公立病院での受診を指示し、そこでPCR検査を受けた。結果は陰性で、翌日から職場復帰してもよいとの指示を受けた。ところが翌日大学に出勤した際、「あなたはCOVID-19の擬陽性の可能性があるため、大学内での感染拡大防止の観点から本日より2週間自宅療養をお願いしたい」と連絡を受け、自宅療養を継続することとなった。

このときはまだ、COVID-19が出始めた時期で対応が混乱しており、以上のような対応も致し方ないと理解している。ただ、「微生物学の専門家で感染に詳しいはずの人間が大学内の誰よりも先にCOVID-19に罹患したという失態を犯したと判断され、懲罰的な意味で自宅療養命令を受けたのでは?」と疑った筆者は、職務復帰後に「絶対にCOVID-19に罹患してはいけない」「感染予防対策に反すると誤解を受けるような行動をとってはいけない」との強迫観念を自ら抱くこととなった。そして、5類感染症移行の日まで苦しみ続けることとなった。

パンデミック時における感染予防対策の徹底は必要であるが、それは一人ひとりの安全と安心を守るためである。あくまで私見であるが、感染予防対策をむやみに強要することは、相手に強い不安と不快、さらには精神的なダメージを与えかねないのではないかと思う。また、筆者の場合のように、対応が混乱している中で何気なく命じたこともその状況次第では、同様のダメージを与える可能性があるようにも思う。次のパンデミックが起こった際、以上のことをよく配慮した上で、感染予防対策の働きかけを行って頂ければと考えている。

岡本成史(大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)[COVID-19][5類感染症

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