前稿(No.5276)で執筆したように、昨今の医療DXが、診療所における業務の効率化につながっていないように感じられるのは、従来の業務フローやシステムをそのままに、単にIT化していることが原因だと考えられる。現在、診療所で行われている業務フローを具体的に変更することで、診療所や患者等にとって効率的・効果的な医療DXが可能になるのではと思い、本稿では、ワクチン接種を例にとって提案をしたい。
現在、日常的に接種されているワクチンの種類は多岐にわたっている。当院は成人を中心に診療をしているため、コロナ、インフルエンザ、帯状疱疹、子宮頸がん、麻疹・風疹等々、様々なワクチンがある。接種券は紙ベース〔自治体への費用の請求用、本人控え、診療所控えの3枚つづり(自治体によって2枚の場合や4枚の場合もある)〕であり、接種後に被接種者へ渡し、診療所に保存、そして決済用に自治体に対し定期的(当院では月に一度、1カ月分を束にして請求額を記載する)に送付する。月末にはレセプト請求業務のほか、これら自治体への請求業務が事務負担となっている。
一方、コロナ感染症が2類相当であったときは、国の事業として接種が進められ、各診療所には記録用のiPadが配布され、OCRを活用することで簡単な読み取りが可能になり、接種者はどの診療所でどの会社のワクチンを、いつ接種したか、自治体・国で確認をすることができた。接種者や自治体は、この仕組みで履歴が確認できるメリットがあったが、この仕組みを決済に活用することができれば、診療所の膨大な決済業務が簡便になったはずである。
さらに、この仕組みをすべてのワクチン接種に活用すれば履歴を管理することができ、決済に使用することができれば、自治体、接種者、診療所すべてに有用な仕組みが可能だったはずである。しかしながら、コロナが5類に変更されたためiPadは回収され、接種者の履歴は紙ベースに戻ってしまった。
小児は世界に誇る母子手帳が電子化され、自治体の40%強がアプリを作成し、利用者の多くが使用しているとのことである。一方、成人用ワクチンの接種歴の電子的管理の仕組みはない。コロナでの経験を活かし、診療所に一台のiPadを配布することで、接種者自身の履歴管理、自治体・国における管理、診療所の管理および決済の簡素化が図られることになる。早急に自治体・国でそのような仕組みづくりを行ってほしいと切に思う。
今村 聡(医療法人社団聡伸会今村医院院長)[医療DX][ワクチン接種]