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【識者の眼】「病床削減への支援」小野 剛

小野 剛 (市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)

登録日: 2025-05-21

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人口減少が進行する地方の病院では、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大も相まって、病床利用率の低下が進み、空床も目立つようになった。厚生労働省の病院報告によると、2024年12月の一般病床の病床利用率は62.7%まで落ち込んでいる。その主な要因として、平均在院日数の短縮化と人口減少に伴う入院患者数減少が考えられるが、看護師不足で病床をフル稼働できないことも要因の1つと思われる。その結果、人件費や医療材料費、設備投資費用などの高騰もあり、病床利用率低下の影響を入院単価上昇ではカバーしきれず、入院収益は低下し、病院全体の経営も悪化しているのが現状である。

地域医療構想のデータによると、2015年の病床報告数は125万床であった。2020年度に地域医療介護総合基金を活用した病床機能再編支援事業(1床あたり200万円超の給付)が実施されたことで、病床数は約8000床が返上された。2023年の病床報告数は119.3万床であり、地域医療構想で想定した2025年の必要病床数119.1万床に近づいている。

高齢化と人口減少のトップランナーである秋田県では、2020〜23年度の間にこの事業で約300床が返上された。しかし、その後も病床利用率は回復せず、2024年度には秋田県内の病院における「病棟休止」「病床削減」などの報道を頻繁に目にするようになった。そのような状況の中、2024年度補正予算で実施する「医療施設等経営強化緊急支援事業」に「病床数適正化支援事業」が盛り込まれた。この事業に対して全国で約2000施設、合計5万床の事業計画提出(活用意向調査)があったことが明らかになった。削減した1病床につき約400万円が給付される事業で、空床が多く病床稼働率の上昇が期待できず、経営が厳しい病院にとってはありがたい。多くの施設が活用の意向を示したことは想定されたことであり、実際そのようになった。

しかし、2025年4月11日に国が示した第1次内示では、配分対象病床数は7170病床で、給付対象から外れた多くの病院にとっては残念な結果になった。地方の病院では患者数減少、人件費や医療材料高騰などにより病院経営は厳しい状況で、経営改善のため病床を削減せざるをえない病院は多い。「病床数適正化支援事業」は、病院経営にとって有用な事業であり、予算範囲内で実施せざるをえないという国の事情は理解できるが、多くの病院の手上げが予想された中で給付額を400万円に固執することなく半分の200万円にして、配分対象病床数を多くするような柔軟な対応があってもよかったのではないかと考えている。

病院経営が悪化し、医療提供体制が十分に機能せず地域医療が維持できないという最悪の事態を避けるためにも、幅広の支援をお願いしたい。

小野 剛(市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)[病床利用率][病床数適正化支援事業

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