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【識者の眼】「医師の働き方改革施行この1年」黒澤 一

黒澤 一 (東北大学環境・安全推進センター教授)

登録日: 2025-05-26

最終更新日: 2025-05-23

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医師の働き方改革に関する改正医療法施行から1年が経過した。医療現場はどのように変化したのか。様々な声があるだろう。筆者は、医師の面接指導制度を現場に反映させる厚生労働省のプロジェクトに関わってきた。研修会に参加してくれた医師などを通して、実際に面接指導が行われている状況を垣間見ることもできた。また、自施設の大学病院では、面接指導の仕組みを整え、医師たちにe-ラーニングで研修を受けてもらい、さらに、筆者の行う院内研修の受講、面接指導を担当してもらった。

面接指導が始まってみると、100人以上いるだろうと想定した、超過勤務が月100時間以上見込まれる医師は意外に少なく拍子抜けした。産業医連携も毎月相当数にのぼると覚悟していたが、少数で済んだ。面接指導担当医師が連携必要と意見書を出してきた場合、産業医があらためて当該医師に接触する仕組みにしている。健康不安のために勤務に制限をかけるほどの事例はなかったが、働き方や勤務環境に課題があった事例ついては、診療科あるいは病院側にフィードバックし、一部はワーキングでも討議に付した。

医師の労働時間は、以前よりもしっかり把握されるようになったが、出退勤の打刻実施率や兼業時間の自己申告率が100%にはなっていない。勤務時間の「操作」が行われていないかも気になる。大学病院の医師の勤務形態は複雑で、事務職員や看護師など、ほかの職員のように出勤と退勤の時間を把握するのみでは不十分だ。大学病院で検討を重ね、出退勤の管理および研鑽の切りわけなど、一応のコンセンサスはできたが、すべての診療科で一律に課せない部分もある。最終的には診療科ごとのローカルルールに委ねられ、グレーの部分が残っているのは課題と思う。

課題といえば、超過勤務が月100時間になる前に面接指導を行わなければいけない点も大変なところだ。医療法改正前は、労働安全衛生法の過重労働に関する枠組みで面接指導が行われており、月末集計で面接は翌月実施でよかった。

いわゆるドクターストップ、つまり、過重労働で疲労困憊になっている高リスクの医師に対して勤務を休ませることだが、実施の判断が難しい。大学病院では、非常に専門的な診療科で特定の医師に業務が集中することがある。しかも、生命に関わる状況が多い。ドクターストップしようにも、代わりとなる人がいない。おそらく、地域医療において少ない医師数で多くの患者に対応するといった場合にも、使命感で身体を酷使して勤務している医師はいまだに多数存在することは想像に難くない。

医師の働き方改革は、医師の健康を守り過労死を防ぐとともに、地域医療も両立させるという趣旨で始まった。数字としての結果はこれから明らかになると思われる。わが国の医療制度の大改革だったと思うが、まだ道半ばだ。これからも医療現場が声をあげるべきで、行政もそれをリアルタイムに吸い上げて軌道修正を図っていってほしい。

黒澤 一(東北大学環境・安全推進センター教授)[産業医面接指導医療法

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