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【識者の眼】「子どもの入院に付き添う家族の負担と、医療現場が果たすべき役割」坂本昌彦

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2025-05-29

最終更新日: 2025-05-27

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日本では、子どもの入院に際して保護者の付き添いが求められることが多い。厚生労働省の調査では、1日あたり約2.3万人の14歳以下の小児が入院しており、そのうちおよそ1.9万人は、付き添いが必要なケースが多い10歳未満である1)

NPO法人キープ・ママ・スマイリングの実態調査によれば、付き添い家族の8〜9割が、食事・排泄・清潔ケア・服薬・遊び・精神的支援など、多岐にわたるケアを担っている。中でも『21〜24時間付き添い』と回答した保護者が25.5%を占め、実質的に24時間体制で子どものケアに関わっていることが明らかとなっている。このような負担の大きさは、身体的・精神的健康にも悪影響を及ぼし、付き添いによって体調を崩した経験を持つ保護者は51.3%と過半数を超えている。特に深刻な課題として浮かび上がるのが、食事の問題である。付き添い家族の85%が栄養バランスの偏りを実感し、65%が主に院内のコンビニや売店で調達していると報告され、栄養バランスの取れた食事を継続的に摂ることが難しい実情がわかる。このことから不十分な休息や栄養摂取は、付き添い家族の体調不良の一因となっていると考えられる。

このような状況で病院が付き添い家族向けに食事を提供する意義は大きい。食事の提供により、保護者は手間なく栄養バランスの取れた食事を摂取でき、身体的・精神的負担の軽減が期待される。しかし、家族に病院食を提供している病院は全体の5.6%にとどまり、普及は進んでいない。背景には、複数の制度的・構造的課題が存在する。まず、厚生労働省のガイドラインでは、付き添い家族は「患者」として扱われないため、医療機関には食事提供の義務がなく、食事費用に対する公的財源の支援も存在しない。また、病院給食の食材費高騰により経営が圧迫される中、付き添い家族向けの病院食の導入はさらなる財政負担となりやすい。

さらに、外部団体やボランティアによる食事支援の受け入れに関しても、医療安全上の問題がある。特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、病棟への立ち入り制限が強化され、食中毒等への責任所在があいまいであることから、病院が慎重になる要因となっている。結果として、食事支援を病院から受けている家族はわずかで、大半が自己調達を余儀なくされている。

本来、入院中の看護は、医療職によって提供されるべきであり、家族が看護業務の一部を担う現状は制度上も問題がある。全国調査によれば、半数以上の病院が保護者の付き添いを前提とした運営を行わざるを得ない状況にある2)。これは医療者不足や診療報酬の制度的欠陥に起因している。保護者は「任意の付き添い」とされながら、実際には付き添わなければ入院できない、つまり選択肢のない状況に置かれているケースも少なくない。

このように、付き添い家族への支援は、単なる福利厚生の問題ではなく、医療の質や子どもの権利に直結する課題である。病院のこどもヨーロッパ協会の「病院のこども憲章」では、保護者が付き添いにより経済的損失を被るべきでないことが明記されており、国際的にも子どものケア環境の整備は重要な指針とされている。今後、医療現場としては、付き添い家族の生活環境改善に向けた制度的・経済的支援の拡充を求めると同時に、現場でできる工夫や支援策の模索が必要である。

【文献】

1)厚生労働省:令和5年(2023)患者調査の概況.

2)藤田優一, 他:小児保健研究. 2012;71(6):883-9.

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][入院付き添い

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