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外反母趾[私の治療]

No.5035 (2020年10月24日発行) P.35

須田康文 (国際医療福祉大学塩谷病院病院長,国際医療福祉大学医学部整形外科教授)

登録日: 2020-10-24

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  • 外反母趾とは,母趾先端が生理的範囲を越え外側(隣接趾側)に傾き,付け根は内側に迫り出す変形を指す。加齢,女性,遺伝などの内因性要素と,先の細い靴やハイヒールの愛用など外因性要素により発生する。両側例が多い。わが国では,65歳以上の女性の約4割,男性の1割に認めるとの疫学研究があり,発生頻度は欧米と大差ないことが明らかとなってきた1)。無症候例も少なくないが,症状を有する場合は疼痛が主体で,その部位は突出した母趾付け根内側(靴に当たる部位)のみならず,母趾および隣接部足底,隣接趾背側,足部中央背側など,外反母趾変形に伴う周囲への負荷に応じて多彩となる。膝痛,腰痛を訴える例もある。また,母趾の筋力低下,歩行時の不安定感,整容,将来への不安といった疼痛以外の症状が主訴となることもある。治療では,症状がどのような病態で生じているかを分析し,それに対処することが求められる。

    ▶診断のポイント

    診断にあたっては,まず患者の症状を聴取し,視診,触診により母趾の変形の程度,胼胝(皮膚に過度の圧がかかっていることを意味する)の部位と圧痛の有無,第2(時に第3も)中足趾節(MTP)関節脱臼の有無,ハンマー趾の有無,足部中央背側の骨性隆起の有無を確認し,単純X線像と照らし合わせながら,症状の原因(病態)を探ることが肝要である。歩行障害や膝痛,腰痛を訴える例では,神経筋疾患や脊椎脊髄疾患,膝関節疾患などがないか鑑別する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    単純X線荷重位足部背底像を撮影し,外反母趾変形の重症度を把握する。第1基節骨軸と中足骨軸のなす角(外反母趾角:HV角),第1・第2中足骨軸のなす角(中足骨間角:M1M2角),第1中足骨頭に対する種子骨(母趾底側に位置し,荷重に対するクッション作用,母趾底屈筋力の伝達機能を有する)の外側偏位,第1中足骨頭外側縁の形状(第1中足骨の回内変形の程度を表す)を確認する。HV角,M1M2角により母趾先端の傾き,母趾付け根の内側へのせり出しの程度が規定される。軽度~中等度の外反母趾(HV角 20~39°,M1M2角 10~14°)では,靴選びと靴の履き方,母趾外転筋体操と母趾MTP関節外側軟部組織のストレッチ,足底挿板(アーチサポート)を主体とする保存的治療が優先される。変形の矯正は難しいが,除痛効果は期待できる。

    保存的治療の無効例,有症状の重度変形例(HV角≧40°,M1M2角≧15°)では外科的治療が考慮される。軽度~中等度例でも第2(第3)MTP関節脱臼例では裸足歩行時に足底に強い痛みを生じるため,外科的治療が必要となることが多い。種子骨のずれ,第1中足骨の回内変形は,歩行時の母趾機能の低下,足底圧分布の偏位に大きく関与するため,外科的治療ではHV角,M1M2角の矯正だけでなくこれらの矯正も行う。

    手術では骨切りを行うため,骨癒合の得られる6~8週までは日常生活,仕事に制限を要し,母趾可動域も若干低下することを術前,患者によく説明する。大きな母趾可動域が要求されるスポーツ種目(跳躍競技,クラシックバレエなど)の選手,愛好家には外科的治療の適用は慎重にしている。

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