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頸肩腕症候群[私の治療]

No.5012 (2020年05月16日発行) P.42

中嶋秀明 (福井大学医学部器官制御医学講座整形外科学領域)

登録日: 2020-05-18

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  • 頸部・肩・上腕・前腕・手指の一部もしくはすべての部位に,筋のこり,痛み・しびれなどを呈する病態であり,この中で,原因が明らかなものが除外された非特異的な病態を頸肩腕症候群と呼ぶ。非特異的であるため明らかな原因は不明であるが,運動不足や姿勢異常などの患者要因,作業,精神的ストレスなど多因子病と考えられている。
    薬物療法には抵抗性である場合が多く,就労・日常生活の環境改善を行い,特に僧帽筋が持続的に収縮・牽引されるような作業や姿勢をとらないよう指導を行う。頸部,肩甲上部,上肢筋に対するストレッチ体操や保温,牽引や軽い筋力強化などの運動・リハビリテーションも有用である。

    ▶診断のポイント

    本症候群は除外診断のため,鑑別疾患を考えながら診断を進める必要がある。本症候群では頸部,肩甲部,上肢の筋の緊張亢進,筋硬結,圧痛,叩打痛,運動制限,握力低下などが現れうるが,本症候群に特異的な所見ではない。主な鑑別疾患である頸椎疾患,胸郭出口症候群,肩関節疾患,絞扼性末梢神経障害,肘・手・手指関節症,末梢循環不全,腫瘍,心因性疼痛などを念頭に置きながら診察・診断を進める。特に神経学的所見は慎重にとるべきである。必要に応じて画像検査(X線,MRI)や電気生理学的検査(神経伝導速度,筋電図),心理検査などを考慮する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    本症候群に対しては基本的には対症療法を行う。薬物療法よりも,就労・日常生活の環境改善(睡眠時間や休憩時間の確保),仕事や日常生活上の指導(僧帽筋や肩甲骨周囲筋にストレスが持続するような作業や姿勢異常への対応),頸肩腕部の運動・理学療法(頸部,肩甲上部,上肢の筋のリラックス効果・血液循環回復を目的としたストレッチ体操や保温,牽引や軽い筋力強化),運動療法(水泳などの主に上肢を使うスポーツ活動)などの生活指導や運動・リハビリテーションが優先される。薬物治療は補助的治療手段であるが,発症後からの期間(急性期・慢性期)により処方の考え方が異なる。特に慢性期では薬物療法の効果が乏しいことが多い。

    急性期は,炎症の持続による慢性痛への移行を極力予防することが大切であり,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)投与による抗炎症を重視する。腎機能障害や年齢に応じた投与量の調節は必要であるが,急性期に抗炎症効果のない薬剤(アセトアミノフェンやトラマドールなど)を一手目として投与すべきではない。

    慢性期は,急性期に使用するような薬剤では効果が現れにくいことが多い。効果に乏しい薬剤を長期的に継続することは,副作用の観点からも勧められない。慢性期に使用されるトラマドールやデュロキセチンは,めまい,嘔気,眠気などの副作用が出現する場合があるため,漸増すべき薬剤である。これらの副作用を予防するために,薬剤開始1~2週間はノバミン®5mg錠(プロクロルペラジン)の併用も推奨される。一方で,副作用を危惧してこれらの薬剤を少量で処方継続することは,薬物動態的には効果が得られにくいため勧められない。デュロキセチンの適応症は,線維筋痛症や変形性関節症であり,肩関節周囲炎の病名での保険適用ではない。

    本症候群は,薬物治療に依存するよりも,患者自身の生活環境や運動習慣など,患者自身が積極的に行う治療のほうがより重要である。特に慢性期患者では,当初より完全に治ることを目標にしがちであり,医療者側の治療効果判定との乖離が生じる場合がある。まずは,より身近な目標(日常生活動作改善)を立てて,徐々に達成しながら治療に取り組んでもらうことが重要である。

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