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胸椎椎間板ヘルニア[私の治療]

No.4994 (2020年01月11日発行) P.40

岡田英次朗 (慶應義塾大学医学部整形外科講師)

登録日: 2020-01-11

最終更新日: 2020-01-08

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  • 胸椎椎間板ヘルニアは胸椎椎間板の変性により,線維輪が後方に脱出することで脊髄を圧迫し,対麻痺などの脊髄症状を呈する疾患である。外傷などの誘因なく発生することが多い。発生頻度は100万人に1人と報告されている1)。椎間板ヘルニアは腰椎や頸椎に多く認めるため,手術が必要となる全脊椎椎間板ヘルニアのうち胸椎に発生するのは0.15~1.8%と報告されている。40~50歳の中年に多く発症し,男性にやや多い傾向がみられる。発生高位はT8以下の下位胸椎に多くみられ,75%を占める。特にT11-12高位に多いと報告されている。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    発症と同時に急性の脊髄症状をきたす場合もあるが,全体の4%と報告されており比較的稀である2)。当初は背部痛や下肢のしびれ感を自覚することが多く,徐々に下肢の筋力低下や歩行障害が進行する。診察の際にはどのような症状の経過なのか,進行性であるかどうかを確認する。知覚障害領域が体幹部および下肢にあるかどうか,両下肢の筋力低下の程度,歩行障害の有無,左右の深部腱反射を確認する。腰椎疾患と考え腰椎の検査のみを施行していると,正確な診断が遅れることがある。患者が下肢のしびれと歩行障害を主訴に来院した場合でも,頻度は低いが胸椎病変を疑うことが重要である。

    【検査所見】

    単純X線:多くの胸椎椎間板ヘルニアでは変性所見はみられず,単純X線では明らかな所見がないことが多い。

    CT:単純CTでは椎間高狭小化や骨棘形成が詳細に検討できる。ヘルニアの石灰化や靱帯骨化症の有無も評価ができる。脊髄造影(ミエログラフィ)後CTでは,椎間板膨隆による前方からの硬膜囊の圧排やくも膜下腔の減少がみられる。MRIのみでは脊髄圧迫の有無は診断できても,その病変が骨棘なのかヘルニアなのかが診断困難な場合があるので,手術を計画した際にCTは追加検査としてとても有用である。

    MRI:最も診断に有用であり,矢状断像では椎間板の膨隆や変性,脊髄圧迫の程度や髄内輝度変化の有無が評価できる。横断像では左右のヘルニア突出と脊髄圧迫の程度の評価が可能である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    背部痛や神経根障害による帯状痛のみで,MRIで脊髄圧迫がない場合には保存治療を選択する。消炎鎮痛薬の内服や外用薬による薬物治療を行う。ヘルニアによる脊髄圧迫により下肢脱力や歩行障害の脊髄症状を呈している場合には,薬物治療のみでは神経症状の改善は望めないため,手術治療を選択する。手術にはこれまで後方法,前方法,後側方法などが報告されている。ヘルニアの高位や大きさ,それぞれの術式の利点と不利点を考慮した上で術式を選択する3)

    【注意】

    MRIでは画像上の椎間板膨隆がみられることがあるが,症状をきたしていない場合がある。詳細な神経学的診察を行い,神経障害を呈しているかどうかをよく確認する。既に脊髄症状をきたしている場合,経過観察を長期にわたり継続すると脊髄に不可逆的変化をきたし,手術による脊髄除圧が適切に行われても症状が残存する可能性がある。進行性の脊髄症状を認めた場合には,早期の手術による脊髄除圧が必要である。

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