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特集:偽痛風とはどのような病気?

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  • 1 偽痛風とは

    1962年,McCartyにより初めて偽痛風は偽痛風症候群として提唱された1)。最近,偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate deposition:CPPD)の一部とされている。高齢者に突然の関節炎をきたすCPPDの発症機序などはいまだ不明な点が多い。

    関節の腫脹と疼痛をきたし,関節穿刺で混濁した液を採取した場合,高度な炎症,関節リウマチ,痛風,偽痛風,感染を疑うが,急を要しない関節リウマチや痛風との鑑別は困難ではない。しかし,早期の診断と治療を要する感染性関節炎との鑑別は必ずしも容易ではない。また,偽痛風の確立した治療法や予防法はなく,高齢者に多く発症するため,薬剤の副作用にも注意を要する。

    筆者は自院にて2008年7月~2021年12月までに57症例の偽痛風を経験し,それらの様々な臨床像からいくつかの知見を得て論文にまとめたので,その内容に沿って解説する2)

    2 偽痛風の診断基準

    偽痛風の診断には,RyanとMcCartyらの診断基準(表1)が広く使われている3)

    診断基準ⅠのX線解析や化学分析でのピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate:CPP)結晶の証明は,臨床上実用的ではなく外来ではほぼ不可能である。

    判定については,診断基準Ⅱの偏光顕微鏡で関節液にCPP結晶を確認でき,かつX線で関節軟骨や半月板などに点状・線状の石灰化陰影を認める場合をdefinite,偏光顕微鏡で関節液にCPP結晶を認める場合か,X線で石灰化陰影を認める急性炎症の場合をprobableとしている。

    膝関節の場合は関節液がほぼ100%存在し採取も容易なので,関節液中のCPP結晶を偏光顕微鏡で確認することが診断確定に重要である。自験例57症例中48症例が初発時は膝関節の偽痛風で関節液中にCPP結晶を認め,X線検査で石灰化陰影も認めdefiniteであった。

    手関節や足関節などは関節液の採取が必ずしも容易でなく,関節液が得られても少量すぎて検鏡してもCPP結晶が検出できず偽陰性となる可能性がありうる。また,膝関節以外ではX線検査で石灰化陰影も見えにくい。膝関節以外ではprobableの場合も偽痛風と診断せざるをえないことが多い。

    3 CPP結晶沈着の機序

    最近の研究において,軟骨細胞内の無機ピロリン酸,あるいは細胞外基質中の軟骨小胞内の無機ピロリン酸がANKH蛋白により細胞外基質に運ばれてカルシウムと結合してCPP結晶が産生されるとわかってきた4)。CPP結晶は関節軟骨基質や結合織に加齢とともに蓄積していくと考えられている。

    CPP結晶が突然関節液に溶出する機序(crystal shedding)ははっきりしていないが,自験例57症例中7症例で両側膝関節に同時発症していることから,関節液など関節内だけの局所の要因だけでは説明できず,また手術や外傷が起因とも考えにくい。

    急性炎症の発症機序としては,血清カルシウム濃度の低下などがきっかけになり,関節軟骨や半月板に沈着していたCPP結晶が溶けて関節液中に放出された可能性が考えられる5)6)。自験例57症例においては,血清カルシウム濃度の平均値は低めであり,高カルシウム血症例はなく,6症例に低カルシウム血症をきたしていたことからも示唆される。また,手術直後や腎臓病,脳梗塞などで入院中に痛みを伴う関節炎の発作を起こすとの報告もあり,ループ利尿薬で低マグネシウム血症をきたしている可能性が示唆されている7)。マグネシウムはホスファターゼのピロリン酸分解作用の補助的役割を担っているので,マグネシウム低下によりピロリン酸の蓄積が増えるとされている7)

    4 偽痛風の特徴

    偽痛風は,主に60歳以上の膝関節(文献的には50%以上が膝関節),手関節,肩関節,肘関節,股関節,足関節などに発症し,痛風と異なり指などの小関節にはほとんど発症しない。特に誘因はなく関節が腫脹し,疼痛と熱感をきたす。全身の高熱は少ないが微熱や倦怠感や食思不振などは特に高齢者の場合しばしば合併する。また,偽痛風は診断を見逃されやすい疾患とされている4)。第2頸椎歯突起に発症する“crowned dens syndrome”や,腰椎椎間関節に発症する場合もあり,診断がつきにくいので,頭の隅に記憶に残しておくとよい。

    たいていは単関節炎で痛風のように急性であるが,稀に両膝関節同時発症,片側膝関節と別の手関節の同時発症など2つの関節において同時発症がありうる2)。自験例では57症例中7症例(12.3%)が両側膝関節同時発症であったが,文献的にも同時発症例は少なくない7)

    自験例57症例95全罹患関節(再発の繰り返し,両側同時発症も含む)の内訳は,膝80関節(84.2%),手6関節(6.3%),肩3関節(3.2%),足3関節(3.2%),肘2関節(2.1%),ベーカー囊胞1関節(1.0%)であった。膝が80関節(84.2%)と圧倒的に多く,諸家の報告でも膝関節は50%を超えることが多い8)9)。当院において特に膝関節が多い理由としては,①膝関節以外の急性関節炎では関節液の採取が困難な場合が多く,CPP結晶を検出できない,②膝関節以外ではX線検査で石灰化陰影が見つかりにくい,ことが挙げられる。以上より,筆者が膝関節以外の急性関節炎を偽痛風と診断していない,または見逃している可能性も考えられる。

    諸家の報告では,RyanとMcCartyらの診断基準のprobableも偽痛風に加えているが,自験例で筆者はほぼdefiniteの症例しか偽痛風と診断していないため,膝関節以外の偽痛風を診断しえていない可能性がある。諸家の報告でも膝関節が半数以上を占める理由として,膝関節が人体で最大の関節であり,軟骨成分が多いこと,また半月板も大きく,さらに荷重関節で外傷を受けやすいこと(後述)を挙げ,これらの要素から偽痛風が膝関節に多いと推察している。

    (1)再発

    偽痛風は再発を繰り返すことが多く4),自験例57症例でも19症例で1〜4回の再発を繰り返し,全症例中33.3%であった2)。1回再発11症例,2回再発6症例,3回再発1症例,4回再発は1症例であった。再発に関してどの関節に再発を起こすか,また再発までの期間については特に傾向はなかった(表2)。

    (2)同時発症

    前述のように,自験例では同時発症が7症例(12.3%)あり,すべて女性であった。7症例中5症例は再発も繰り返していた。

    (3)基礎疾患

    57症例95全罹患関節中の基礎疾患は,膝80関節のうち2関節(2症例)のみ関節リウマチであり,残りの78関節はすべて変形性膝関節症であった。膝関節以外では,手関節:手関節炎,肩関節:肩関節周囲炎,関節リウマチ(1症例),足関節:足関節炎,肘関節:変形性肘関節症,肘関節炎,ベーカー囊胞(変形性膝関節症に併発)であった。

    (4)好発年齢

    高齢になるほど偽痛風の発生が増えるとされている。自験例57症例の年齢は,43〜101歳(平均年齢80歳),男性17症例(平均年齢76歳),女性は40症例(平均年齢81歳)であった。諸家の報告と同様に自験例でも60歳以上では10歳ごとに症例数がほぼ倍になり,80歳代がピークであった(図1)2)。90歳以上では高齢者の人口が少なくなるため症例数も減ると考えられる。
    性差はないと言われているが,自験例では女性が男性の2倍ほど多かった。

    (5)若年性偽痛風

    50歳以下の若年性偽痛風は稀で,家族性や代謝性などに原因があると指摘されている4)。自験例では,2症例(43歳男性,44歳男性)が若年性偽痛風であった。43歳男性で詳しく血液検査を行った結果,カルシウム,リン,マグネシウム,鉄は正常値,PTHインタクトがわずかに高値で73pg/mL,トランスフェリン正常値,フェリチンが620ng/mLと高値を示していた。副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシスの症状は認めなかった。44歳男性ではカルシウム値などは正常で,PTHインタクトやトランスフェリンなどは検査できていない。2症例とも家族性や代謝性の疾患はなかった。

    (6)関節の破壊度

    諸家の報告では,偽痛風を生じた関節では単なる変形性関節よりも破壊度が強い場合が多いとされている4)5)。自験例を石灰化陰影のない症例と比較はしていないが,57症例中片方の膝に石灰化陰影があり他方にはみられない6症例と,片方の手関節に石灰化陰影があり他方の手関節にない1症例についてX線検査で左右の変形や破壊度を詳細に検討したが,差はみられなかった。

    (7)合併症

    副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシス,低マグネシウム血症,遺伝性疾患などが報告されており,副甲状腺機能亢進症では正常の場合より3倍も偽痛風が起こりやすいとされている4)9)。自験例57症例においては代謝性や遺伝性の疾患の素因はなかった。

    (8)外傷との関連

    自験例57症例中5症例において,以前半月板に石灰化陰影がみられず,後に石灰化陰影が出現し偽痛風を生じていた。加齢による影響が示されるが,半月板手術を受けた例では受けていない例よりCPP結晶沈着が5倍多いという報告もある4)9)

    若年性偽痛風2症例のうち,43歳男性では25年以上前に右膝の半月板手術を受けていた。また,44歳男性は25年以上前にバイク事故による右大腿骨骨折で手術を受けており,事故時に大腿骨骨折以外に同側の半月板を損傷していた可能性があった。2症例とも右膝に偽痛風を生じ,右膝の半月板にのみX線検査で石灰化陰影を認め,左膝の半月板にはまったく石灰化陰影はみられなかった(図2)。以上より半月板のCPP結晶の沈着は経年的な要素以外に,半月板の外傷が大きな要因になっている可能性が示唆された。

    自験例57症例中,60歳以上の高齢者で4症例に患側の膝関節のみに石灰化陰影が認められた。この4症例も単純に経年的原因だけとは考えにくく,以前に半月板などに外傷を受けた可能性がある。

    (9)入院あるいは手術を受けることによる影響

    脳卒中で入院中の患者や下肢の手術を受けた患者が,膝関節などに偽痛風を起こすことが多いとの報告がみられる7)。脳卒中や下肢の手術が直接偽痛風の発症原因とは考えにくいが,長期臥床やループ利尿薬などの使用が素因になっている可能性がある。

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