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宇田川玄真(5)[連載小説「群星光芒」115]

No.4689 (2014年03月08日発行) P.68

篠田達明

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-08

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  • ――手前には玄白先生に玄真を推薦した責任がある。逸早く謝罪にゆかねば申し訳がたたぬ。

    その日の夕刻、杉田家を訪れた玄沢は、床の間を背にした師の玄白に向って額を畳にこすりつけた。

    「このたびは手前の門人安岡玄真が横道に外れた曲事に走り、先生には大層なご迷惑をおかけしました。まことに申し訳なく、平にお許し願います」

    ひたすら謝りつづける玄沢に、
    「おまえが詫びを入れることではない、わしにも多々落度があった」
    と玄白は骨ばった肩を落した。

    「今にして思えば玄真にとって杉田家は窮屈だったかもしれぬ。とりわけわが家は大家族で女人が多い。女たちはお人好しだが、お節介でなにかにつけて細かく口うるさい。玄真もいらだって外出することが多くなり、遊びの味を覚えたのであろう」

    玄真がはじめて足を踏み入れた花街は本所弁天島の岡場所だった。紅殻格子の長屋が軒を連ねる賑わいに胸がわくわくした。そのうちに岡場所では物足りなくなり吉原遊郭へ足をむけた。かつて吉原には太夫、格子、散茶、埋茶と遊女の順位があったが、太夫と格子は消滅し、いまは散茶から出た呼出、昼三、附廻が最上級の遊女となった。その下に座敷持、部屋持、さらに最上級の局女郎の6等の位がある。玄真が馴染になったのは玉越屋の梅川という小柄でぽっちゃりとした座敷持。梅川の三味線にのせて唄い踊り色白の柔肌と戯れる悦びは、さながら極楽に遊ぶかのよう。かつて味わったことのない快楽だ。

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