橋本博史先生の著書『全身性エリテマトーデス臨床マニュアル 第4版』のご出版,おめでとうございます。先生は,1964年に順天堂大学医学部をご卒業後,1980年から同大学膠原病内科の助教授,1994年から2005年まで教授を務められました。全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の研究・臨床をライフワークとされ,定年翌年の2006年には,約40年にわたる臨床経験と1125例の症例をもとに,本書の初版をご執筆されました。そして,近年のSLEの病因解明と治療の進歩を受け,このたび,第4版が出版されました。
SLEは全身諸臓器を侵し,多彩な臨床症候を呈する代表的な全身性自己免疫疾患です。特に若年女性に好発する難治性疾患として知られています。SLEの疾患制御への関心から,評者も膠原病を専攻しました。疾患制御のためには,まず病因の理解が欠かせません。第Ⅱ章では,病因に関する最新情報が90頁にわたって記載されており,橋本先生の教育者,研究者としての想いが伝わります。また,第Ⅵ章では生物学的製剤など,脱ステロイドをめざす治療の最前線についても記載されています。
圧巻は約170頁に及ぶ第Ⅶ章の「臨床病態と治療・管理」です。臓器病変ごとに臨床症候の診察,病態評価,診断,治療の実際について,橋本先生の比類なき臨床経験を随所に交えて解説されています。先生の臨床医,教育者としての気持ちが伝わります。日常生活指導に関する記述からも,患者一人ひとりを大切にする姿勢が滲み出ており,多くの医療者の学びになるものと思います。
近年,身体診察が軽視されたり,系統的に教科書を学ばずに,断片的に情報に接したりする医師が増えている印象を受けます。しかし,SLEのような複雑な疾患においては,患者と正面から向き合い,臨床症候を把握するという診察の基本がとても重要です。そして,病因・病態に基づいたベストな治療のためには,病因から診断,治療までを一貫して理解する必要があります。本書はSLEという疾患を通じて,医師としてのあり方を考え直す機会も与えて下さっています。