私にとって著者の井尻先生は,同じ京大整形外科医局の後輩で,住んでいる場所は離れていますが,これまで先生の著書を幾つか読ませて頂きました。今回の『あなたも名医! プライマリ・ケア医のための腰痛診療』は,2020年に日本医事新報に掲載された論文「クリニックにおけるリアルな腰痛診療」の発展版とも言えますが,腰痛の本もここまできたかというのが率直な感想です。井尻先生の日常診療での経験をもとに,腰痛診療について考えてこられたことを集大成した最終到達点のように思います。
従来の腰痛の教科書のように,疾患別,系統的に項目を並べた記述ではなく,急性腰痛・慢性腰痛と神経痛にわけて考える独特の分類法,腰痛の診察法,薬物療法や運動療法の具体例,腰痛の心理的側面など,実際の臨床現場で必要な知識や考え方が詰まっています。最終章では労働と関係が深い腰椎について作業姿勢のこと,産業医としてどう関わるか,そして,腰痛患者さんを専門医に紹介するタイミングについても述べられています。付録としての「私の腰痛35年史」には,ご自身が腰痛患者として経験されたこと,2度にわたって腰痛手術を受けられたご経験についても語られており,腰痛の手術に従事してきた私自身にとって考えることの多い章でした。
この本を読み終えて,私が整形外科研修医のときに読んで感激した腰痛の本,Bernard E. Finneson著の『Low Back Pain』(Lippincott社,1973年発刊)を思い出しました(この本は絶版になっています)。単著で書かれた腰痛の本,明解な構成や図解で,本書はFinneson以来の名著だと思います。プライマリ・ケア医にお勧めするのはもちろんですが,これから整形外科を学ぼうと考えておられる研修医にもご一読をお勧めします。