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相良知安(9)[連載小説「群星光芒」264]

No.4853 (2017年04月29日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2017-04-30

最終更新日: 2017-04-21

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  • 「ドイツ医学採用が決定したからには英国医師ウィリスの処遇をどうするか」

    相良知安にとってこれが難問だった。ウィリスは今もなお藤堂屋敷の病院で働いている。知安は病院関係を担当する大学少丞の岩佐 純に藤堂屋敷の内情について訊いてみた。

    「太政官が藤堂屋敷を病院に改造したのは明治初(1868)年、最初の院長は元薩摩藩医の前田信輔だった」

    岩佐は病院の成り立ちから話し始めた。

    「ところが、前田院長は薩摩の威光を鼻にかけ、職務をそっちのけにして吉原で遊び回っていたのだ」

    入院中の傷病兵が怒って「院長を叩き斬ってやる」といいだしたから騒動になった。

    驚いた前田院長は逃げるようにして退職、その後任にオランダ留学から帰国してまもない大阪の緒方惟準に声がかかった。

    張り切って赴任してきた緒方だが、病院の内情には吃驚した。医師の大半は薩摩藩の漢方医で、昼間から遊郭へ乗り込んだり芸者を病院に連れ込んだり勝手気儘のし放題。乱脈ぶりに呆れ果てた緒方は、
    「医師は朝9時までに出勤すること」
    「出勤簿に必ず記名すること」
    「40歳未満の看病女は雇わぬこと」

    などと記した規則を医局に張り出した。

    しかし漢方医らは「何だ、これは?」と張り紙を破り捨てたばかりか、逆に、
    「緒方惟準は病院取締役として相応しからず」と追い出しを図った。

    すっかり嫌気がさした緒方はまもなく新設された大阪仮病院へ転職してしまった。

    「ウィリスはそんな騒ぎに目もくれず、午前中は外来診療や病棟回診をおこない、午後になると医書生たちに内科学や外科学、産科学などの講義をしてすこぶる評判はよい」と岩佐はいった。

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