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【書評】『術後眼内炎パーフェクトマネジメント』

No.4851 (2017年04月15日発行) P.74

岸 章治 (前橋中央眼科院長/群馬大学名誉教授)

登録日: 2017-04-16

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術後眼内炎は眼科医にとって悪夢である。せっかく手術がうまくいっても、数日後に毛様充血と前房蓄膿が出れば、すべてが台無しになってしまう。我々は感染症を常に恐れている。角膜移植後にはステロイドを長期間点眼するが、感染予防と称して抗菌薬の点眼を併用するのは、その潜在意識の表れであろう。その結果は、高率な真菌症の発生である。「抗菌薬が結膜嚢を清潔にする」というのは根強い迷信である。病気のない結膜嚢に「予防的」に抗菌薬を点眼するのは、益がないばかりか常在菌のネットワークを壊し、耐性菌を誘導する害がある。抗VEGF薬の硝子体内注射ではそれが問題になっている。

島田宏之先生は、10年程前からポビドンヨードで術野を繰り返し洗浄する方法を開発し、学会や学術雑誌で啓蒙を続けている。本書のすごい点は、周術期感染症に対する科学的な態度が貫かれていることである。著者らは結膜嚢における常在菌の役割と薬剤による耐性菌の発現から説き起こし、手術によってそれらの菌の眼内侵入が避けられないことを実験的に示した。ゆえに感染を予防するには、術中に結膜嚢を無菌化すればよいということになる。抗菌薬の作用は細菌の細胞壁、蛋白、あるいはDNAの合成阻害であるが、この作用が発現するには15~60分を要する。つまり、短時間の手術中に抗菌薬を点眼しても無駄なのである。術後眼内炎への硝子体手術で眼内潅流が15分で終わるとすると、潅流液に抗菌薬を入れるのはナンセンスということになる。それ以前に、抗菌薬が効かないこともある。

一方、ヨード剤は15~30秒で殺菌効果を発現し、ほとんどすべての菌に有効である。しかも耐性菌を作らない。私は彼らの学会報告を聞いて、術後眼内炎に対しポビドンヨードで硝子体腔を潅流したことがある。効果は抜群で、翌日には前房がきれいになっていた。

本書により、多くの眼科医が迷信から解放され、術後眼内炎へのパーフェクトマネジメントが広く行われるようになることを期待したい。

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