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浅田宗伯(10)[連載小説「群星光芒」247]

No.4835 (2016年12月24日発行) P.64

篠田達明

登録日: 2016-12-25

最終更新日: 2016-12-13

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  • わしは脚気仮病院の治療成績に異議を唱えずにいられなかった。

    「各区の患者数や死亡数の記載がないのもおかしい。なんともお粗末な報告書じゃ」

    了庵さんは山羊ひげをしごいて肯き、

    「手前もそう思いましたが、長谷川事務長は本郷の新病院に移ってから本格的に漢方と洋方の比較検討をするので来年までお待ち願いたい、と申しておりました」

    人の好い了庵さんは洋方医に適当にあしらわれたのであろう。それから了庵さんは院内で行われた漢洋双方の医師による学術討論会の模様を語った。
    長谷川事務長の司会のもとに口火を切ったのは洋方の佐々木東洋だった。
    「わが輩の研究によれば、脚気の原因についてあらゆる資料は脚気菌の存在を示しておる」。元1等軍医正の佐々木東洋は総髪をかきあげてズバリといった。

    「その確たる証拠の第1は脚気が好んで足に発病することにある。すなわち、土中に棲息する菌体が足裏より人体に侵入いたすのである。第2に脚気はなにゆえ盛夏に多発するかといえば、脚気菌が夏期に繁殖しやすいからである。第3に脚気は東京、京都、大阪に好発するが、これは3府の湿地に脚気菌が大量に分布するからである。ゆえに脚気菌が生存するための湿気を欠く高原山岳の地にて脚気の発病がはなはだ少ないのは理の当然といわねばならない」

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