株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

朝の手のこわばりの治療法は?

No.4802 (2016年05月07日発行) P.65

光畑裕正 (順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者 医療センター麻酔科・ペインクリニック科長)

登録日: 2016-05-07

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

82歳,男性。体重62kg。落ち葉を掃いて毎日集めています。長いときには約1時間かかりますが,約2週間前から,朝にPIP・MP関節が腫れ,自発痛が続いています。右手の第3,第4指に痛みと腫れが強く,冷えると圧痛もあります。右第4指に少しばね指を訴えています。白血球数6700/μL,RF(-),CRP(-)。多少叩いても痛がりません。鎮痛薬の湿布をしていますが一進一退です。外傷の既往はありません。朝の手のこわばり,痛み,腫れはなぜ起こるのでしょうか。また,治療法をご教示下さい。 (石川県 S)

【A】

82歳の高齢男性で,毎日の作業後にPIP・MP関節の痛みが出現する状況を考えると,指関節の変形性関節症が最も疑われると思います。朝のこわばりから関節リウマチを考えて炎症所見の検査をされていますが,炎症所見検査が陰性であり,関節リウマチ分類(文献1)からも関節リウマチの可能性は低いと思います。
また,殴打痛もないことより骨折・脱臼の可能性は少ないと考えられます。指の変形性関節症としては,指の先端に近いほうにある第1関節(DIP関節)に生じるもの(へバーデン結節:第1関節の背側中央の伸筋腱付着部を挾んで2つ結節ができるのが特徴),第2関節(PIP関節)に生じるもの(ブシャール結節:症状が関節リウマチに似ているので,鑑別が必要),母指の付け根の関節(CM関節,MP関節)に生じるものがあります。加齢や指への過度の負担などで変形が進行し,徐々に複数の指に変形が出現します。第1関節の近くに,水ぶくれのような透き通った膨隆(粘液嚢腫)が出現することがあります。
診断は,日常の手の使用頻度と臨床所見での関節の変形,突出,疼痛の存在で行います(文献2)。X線検査では,DIP関節間隙の狭小化や関節の破壊像,骨棘の形成があればヘバーデン結節と診断できます。保存的療法としては,局所の安静や鎮痛薬の投与,局所のテーピング,局所を温めるなどがあります。急性期において,炎症所見が強いときには関節内への少量の局所麻酔薬とステロイド注射が有効なことがあります。保存的療法で痛みの改善がないときや,変形が強くなり日常生活に支障をきたす場合は,手術を考慮します。
朝の手のこわばりは,高齢者では夜間の冷えによることが多くみられます。夜間睡眠時に手を冷やさないようにすることも治療の1つと考えてもよいかもしれません。本例のような高齢者で使用する鎮痛薬は,非ステロイド性消炎鎮痛薬では胃潰瘍の合併症の頻度が高まることより長期間の投与は避けるほうがよいと思います。アセトアミノフェン180mg(1日3回投与1回60mg)が適していると考えられます。
手を温める薬物は西洋医学ではありませんが,漢方では冷えを取るものがいくつかあります。当帰四逆加呉茱萸生姜湯7.5g/日(3回にわけて投与)で浮腫や痛みを緩和でき,効果がみられることがあります。炎症の強いときには越婢加朮湯が適しています。慢性的に痛みや腫れがあるときには,よく苡仁湯を使用します。
本例では毎日の落ち葉掃きを止め,安静にすることが一番の治療と考えられます。老化とともに進行しますが,指に過度の負担をかけなければ予後は悪くないと考えます。

【文献】


1) Mueller RB, et al:Clin Rheumatol. 2015;34(1):51-9.
2) Zhang W, et al:Ann Rheum Dis. 2009;68(1):8-17.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top